OASIS

アクト・オブ・キリングのOASISのレビュー・感想・評価

アクト・オブ・キリング(2012年製作の映画)
3.4
1965年にインドネシアで「共産党員狩り」と称して行なわれた大虐殺によって100万人以上が殺害された9月30日事件を追ったドキュメンタリー映画。

実際に大虐殺に加担したとされるメンバーを集めてその模様を再現させようという異色過ぎる内容は言葉を失う程の衝撃。
「ワイヤーの方が血が出にくいんだ」だとか「針金だと早くすませられる」など自慢の殺人方法を嬉々として語る様子には「あぁ、はぁ、そうですか、ハハ・・・」という乾いた笑いしか出てこずとても反応に困る。
「もっと残虐にも出来るぜ!」と女子供にも容赦無く再現してみせるが、それがもうリアル過ぎて「カット!」という声によってやっとこれが映画だったんだと気付かされてホッとする。
だが、それ以上の事とは一体・・・と当時の映像を想像させる恐ろしさも持ち合わせている。

ただ、ドキュメンタリー映画というのはひたすら淡々と対象を撮り続けている訳では無く、当初からある目的に基づいて方向性が定められていたり編集が加えられていたりするので、その中心人物であるアンワル・コンゴにスポットを当てた事によって彼の反応ありきの物語に見えてしまうのは仕方が無い。
実際「待ってました!」とばかりにラストシーンでは彼の一挙一動を余す事無くとらえ続けているわけで、若干のあざとさを感じてしまう。
だが、このシーンのえもいわれぬ感覚は凄まじく、観客も一体となって言葉を飲み込みアンワル氏の葛藤を見守るしかないという息詰まる場面だった。
前半の饒舌な喋りから一転して表情に影を落とし始め、嗚咽が抑えられない程に苦しむ彼の姿はもはや芸達者な役者にしか見えなかったが・・・。
監督であるジョシュアが「いや、これは映画ですから・・・」とアンワル氏を遠回しに現実に引き戻すかのように宥める場面もやはり嫌らしさが滲み出る。

そんな中で僕が一番怖いと感じたのは新聞社のアイツ。
「共産党員かどうかは俺が決めてたぜ!」と満面の笑みで語るこいつの所為で女子供の未来や希望がどれだけ奪われた事か・・・とはらわたが煮え繰り返りそうになった。
結局はアンワル達もメディアによる国政操作の被害者であって自分達のした事が「虐殺」だとは到底思っていなかったんだろうと。
客観的に見て始めて「虐殺」か「制裁」の判断がつき、中心にいる間は分からないものなんだろうな・・・。
だが、アンワル氏の右腕ヘルマンだけはいつまで経っても気付かないだろうなという確信はある。

大量虐殺自体はインドネシアだけに限った事では無いし、それこそ今尚実際に行われている国もある。そんな中で、英雄として祀り上げられている彼らに対して善悪だけでは語りきれない何かを想起させる事の影響は計り知れない。
そういった意味ではドキュメンタリー映画の歴史に残るのは間違いない。
他の国を題材にしたものも観てみたいと思ってしまった。
頭がクラクラする程倫理観を揺さぶられる内容ではあるが、映画としての「面白み」があるかと言われればどうだろうと思う次第です。

追記:なんと、今度は事件を被害者側から描いた続編があるそうな。「ザ・ルック・オブ・サイレンス(原題)」こちらも観ねば。

@シネ・リーブル梅田
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