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パラダイス 愛のKSatのレビュー・感想・評価

パラダイス 愛(2012年製作の映画)
3.9
日光浴をする白人たち。彼らの前にはロープが伸び、その向こう側にあるビーチでは現地の黒人たちが微動だにせず直立不動でじっと待っている。

美しく鮮やかな色彩や規則正しく幾何学的に並べられた人の配置。この映画で映し出されるこんな風景は、ずっと昔、親戚のおばちゃんからもらったどこかの国の絵葉書を思い出させる。

しかし、ひとたびロープの向こう側のビーチに行くと最後。待ち構えていた黒人たちが次々に物を売りつけてくるのだ。

中盤あたりに出てくるワニ園では、ぶら下げられた鶏肉を食べようとワニたちが群がる。結局それは、ビーチの場面と同じことなのだ。

察しの通り、本作は美しい画面とは裏腹の内容になっている。全編にわたりオーストリア人の傲慢さとファッションセンスのなさ、そしてドイツ人同様の潔癖症が延々と映し出される、地獄のような映画なのだ。

オーストリアから来た白人女性たちは皆、「富裕国の象徴です」とばかりにブクブクと肥っているが、心に何か決定的な欠如があるらしい。現地の若い男たちに対しては、貧しくも可愛らしい生き物としてしか見ておらず、すぐに性欲の捌け口として扱うようになる。

一方、現地の黒人男性はいかにも「単純で陽気なアフリカ人」という風に見える。「ジャンボ」と「ハクナ・マタタ」を繰り返しながら笑顔で接し、性的に飢えた白人女性たちに愛を与える。しかし、少し打ち解けるとすぐに親戚一同揃って金をせびり始める。

黒人男性を性の捌け口としてどこか見下しつつ金を与えてしまう裕福なオーストリア人女性と、優しく純粋な笑顔で従順に肉体を差し出しつつすぐにたかりにかかるケニア人男性。

こうなると、果たしてどちらが搾取する側なのかわからなくなってくる。

国こそ違うが、「グリーンブック」や「ブラック・クランズマン」なんかよりよっぽど人種問題の本質を突いていて不気味な映画ではないか?
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