八咫

パラダイス 神の八咫のレビュー・感想・評価

パラダイス 神(2012年製作の映画)
3.7
『パラダイス 愛』に続きこれもすごい……。やばい、って言葉は使いたくないけどやばい。前作と引き続いて確信に変わりそうな点として、人類の問題、争点として挙げられがちな人種差別や宗教対立というものを題材にしつつ実際は人間の剥き出しの醜さによって引き起こされることでしかないことを監督は言いたいんじゃないかな、と。人間のアイデンティティに深く寄与する人種や宗教といった事柄はただそこにあるだけであって、人間はそれを元に集まりやすく群れやすく、大義を得やすいから、だからこそ盲信しやすく対立するのでは。ただ単に人間の未熟さ故に争うのだ、という監督からのメッセージなのかなって勝手に受け取った。

アンナは狂信的なまでのクリスチャンだけど、彼女があそこまで信仰に浸れたのは夫の不在のおかげだと思う。何ていうか、自分の心をかき乱す存在の不存在は、心にいい意味でもなく悪い意味でもなく大きな空白を作ってくれるから、教義や助言を素直に受け入れやすいんだよね。それが自分に馴染みのあるものであれば尚更。アンナにとってはそれがキリスト教だったのでしょう。でも夫が帰ってきて、彼はアンナの盲信する宗教ではない異教の信者だし身体は不自由だし口を開けば衝突ばかりだしで、ここで夫婦の問題として論じれば済むのに一番目につく宗教対立が浮かび上がってしまう。

アンナがこんなに自分が祈りを捧げて時間を捧げているのに、神は沈黙したままであることを思い知らされ十字架に大嫌いと言ってツバを吐いたのはもう傑作だった。結局宗教は個人の問題を解決してくれる万能の存在ではなかったわけで、恐らくだけどそれでも頑張って乗り越えましょうっていうのが教えだし、アンナ自身も布教活動して同じことを言うだろうし言ってただろうし。だからこそアンナが、自分が報われないと思い知った時のそのあっけないほどの信仰の捨て方ったらないね。人間ってこうだよな〜〜〜!って思えた作品。監督凄い。

そして相も変わらず構図が好み。ふと気づいたけど、こういう監督が多用する広角の構図って日本の映画ではまず見かけないなあ。


脚本 4
美術 3.8
演技 3.8
演出 3.9
チープ感のなさ 3.7
満足度 3.5
その他(音楽、カメラワーク)
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