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パラダイス 神のnetfilmsのレビュー・感想・評価

パラダイス 神(2012年製作の映画)
3.7
 ウィーンでレントゲン技師として働くアンナ・マリア(マリア・ホーフスタッター)は、妹テレサのようにヴァカンスに出かけるでもなく、イエスのために夏休みの日々を過ごす。讃美歌や鞭打ちの苦行、聖母マリア像を携えての布教活動、それだけで休暇を過ごすにはありあまるほど。敬虔で頑固なカトリック教徒の彼女にとって、パラダイスはイエスと供にある。ところがある日、車椅子でエジプト人イスラム教徒の夫ナビルが2年ぶりに家に戻り、彼女の日常は狂い始める。イエスを理想の男のように慕い敬いながら、夫には無慈悲な態度をとる妻にナビルは怒りをあらわにする。アンナ・マリアのパラダイスは、宗教と結婚の両方に亀裂の入った夫婦の争いの場と化してしまう。母・娘・叔母の3人の女性の歪んだ愛をユーモラスに描いたパラダイス3部作2作目。

 映画の主人公はおそらく「強迫性障害」という心の病に冒されているのだが、本人はそのことにまったく気付いていない。本人が良かれと思ってやっていることでも、周りの人間からすればはた迷惑な行為である。そういう他者と自分との感覚のずれを信仰心で埋めようとするのは土台無理なのだ。仕事の無い休日に戸別訪問し、キリスト教を勧める場面は全てフェイク・ドキュメンタリーの手法で撮影されている。相変わらずカメラワークは美しく、どのシーンも背景がきちんと絵になるように、納得の行くまでフレームを覗いたことが伺える。主人公のマリア・ホーフスタッターは、ハネケ『タイム・オフ・ザ・ウルフ』のあの女性なのだが、○○系○○人というルーツの複雑な家系の多いヨーロッパにおいては、キリスト教徒とイスラム教徒の夫婦なんて、おそらく星の数ほどいるに違いない。結婚よりも宗教を重んじたならば、互いの宗教観の違いで即離婚でもおかしくない。大体この夫婦は、夫ではなく妻が社会に出て働いている。そこに家庭内宗教対立の根深さが垣間見える。
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