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パラダイス 希望のnetfilmsのレビュー・感想・評価

パラダイス 希望(2012年製作の映画)
3.9
 御婆、母親、子供に及ぶ3世代の女性達の屈折した愛情の過程を、幾分皮肉めいたタッチで描いたパラダイス3部作の完結編。『パダライス愛』が母親の物語で、『パラダイス神』が御婆の物語だったとするならば、ラストを飾る今作は、同時期における13歳の娘の物語である。前2作の愛情がかなりクレイジーな妄想に取り憑かれた屈折した感情だったのに対し、この完結編で13歳の少女が見せる愛情は、ピュアで実に甘酸っぱい。男性に対して過度なイメージを膨らませ、同じ部屋の友達に初体験の感想を聞くうぶな少女。ダイエット合宿で肥満解消プログラムに励むうちに、自分よりも遥かに年上の中年医師に恋をしてしまう。授業をさぼって、保健室に入り浸る日本の若者とさして違わない思春期の少女のありふれた風景。オーストリアでもドイツでも日本でも、基本は変わらず、やがて大人への憧れがいつしか愛情に変わる。恋に奥手だった1人の少女がどんどん積極的になる様子を、ザイドルは極めて冷静に突き放して描く。医務室に向かう前に、トイレでメイクを直す場面なんて実に生々しい。自分のことが嫌いなんじゃないかと思い悩む様子がいじましい。

 ハリウッド映画のようなクローズ・アップの多用や、テンポの良いカット割りはほとんどしない。基本はミディアム・ショットを多用し、一つのシークエンスの中でカメラの位置を極力動かさず、役者の息吹を余すところなく捕らようとする。カメラがクローズ・アップで役者の表情に迫ったのは、合宿所の4人部屋と中年医師の車の中だけだったかもしれない。物理的にミディアム・ショットを選択出来ない場面以外、決して簡単には人物に寄ろうとはしない。冒頭の一人一人名前を叫ぶシーンでもわかるが、この映画に出演している肥満の子供達は全てプロの子役ではなく素人たちである。よく目を凝らして観ると、プールの場面では前の子のバタ足が後ろの子の顔面に当たっている。合宿所の庭先で横一列で『幸せなら手を叩こう』の替え歌を歌う場面なんて、ウェス・アンダーソン顔負けの実に絵画的な素晴らしいショットである。本作で撮影を担当した2人の内の1人はエドワード・ラックマン。ソフィア・コッポラ『ヴァージン・スーサイズ』のガーリーな色合いやヘインズ『エデンより彼方に』のクラシック・テイストの色味は記憶に新しい。カニエフスカ『レス・ザン・ゼロ』のあのプールを美しく撮った男である。

 ザイドルの独特の色味やテイストは、このエドワード・ラックマンに負うところが大きい。人間の肌の色でさえも、時に絵画的に美しく撮ってしまう名カメラマンに今作は支えられている。今時、ごく当たり前の美男・美女が1人も出て来ない映画も珍しい。BARでナンパして来た男性2人組だけが例外的に比較的イケメンの雰囲気だったが物語の進行上、必要な人物に美男・美女は1人も出て来ない。また13歳の少女の行動も痛いと言えばだいぶ痛いのだが、それ以上にこの中年医師の煮え切らない態度や行動の方が数十倍痛い。中年女性の屈折した(こじらせた)恋愛を描いた前2作に対し、その味わいは妙に愛おしい。
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