乙郎さん

トム・アット・ザ・ファームの乙郎さんのネタバレレビュー・内容・結末

2.5

このレビューはネタバレを含みます

2014/12/5@桜坂劇場
 フランスの新鋭・グザヴィエ・ドラン監督のサスペンス映画。ドラン監督は初めて。暮れゆく季節に合いそうな作品だと感じた。
 オープニング、農道を車が走る所などはキューブリック版『シャイニング』を連想させる。全体を通して、農村の風景と限定されたシチュエーションの中、主人公の亡くなった恋人の兄からの暴力による抑圧が主人公の過去における抑圧と重なっていくような印象を受けた。
 この映画の中で回想シーンはあまり出てこないんだけど、主人公から語られる内容は甘美な印象が強い。けれども、例えば倉庫の中で兄とダンスを踊る場面は、急に画面が横長になったりと明らかに画面として「強調」を行っているんだけど、それは非常に不吉なものを感じさせる。つまりは、ここで描かれる主人公と、亡き恋人の兄との関係は、そのまま亡き恋人との関係をなぞっているのではないかと。
 それと、主人公と亡き恋人はいわゆるゲイカップルであり、そのことを亡き恋人の母には隠しているのだけれども、そういった状況もあいまって、ここで描かれる抑圧は、ゲイの方が社会で感じている抑圧の心象風景ではないかということも少し考えた。だから、なぜ亡き恋人の兄がこうまで暴力的なのかというのも、彼が男性性を象徴する役割を担っているからなのではないかと。
 いずれも仮説にすぎないけれども。

 で、これが抑圧との関連を持つ物語だとすると、いくつか腑に落ちない部分も出てくる。
 例えば、一回目に主人公が脱走しようとしたときに、逃げられたのになぜ彼は引き返したのか。
 物語の中盤で登場する友人の女性はいったいどのような役割があり、そしてなぜこの農村から逃げることが可能だったのか。
 そして、ラストに逃げおおせた後、街の風景にルーファス・ウェインライトの「ゴーイング・トゥ・ア・タウン」が被さる。その曲調はとても陰惨なもので、歌詞も「アメリカにはうんざりだ」みたいな内容だ。

『トム・アット・ザ・ファーム』は『トム・アット・ザ・パーム(掌)』なのかもしれない。
乙郎さん

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