岡田准一くんと役所広司さんのW主演の時代劇とのことだったので、予備知識は持たずも、少しの期待を持って観たよ。
岡田くんはこの時まだ34歳、役所さんは58歳か。
両人ともに、実に素晴らしい演技だったよ。
物語としても誠に傑作だった。
10年という瞭然かつ有限な命。
偽りの罪により切腹の下命を賜りながら、死を自分のものにせんと生きた戸田秋谷(役所広司)。
そして、潔い死へと歩みを進める彼を慕う家族や村人たち、そして、秋谷の監視役として彼に着くうちに秋谷の心根に心腹し、偽りの罪を解かんとする檀野庄三郎(岡田准一)。
そして、秋谷の切腹を監督する家老までもが、厳格ながらも実直で明朗な秋谷に信服してゆく。
そして、良き夫婦だった、と最期に妻(原田美枝子)と語り合い、涙も見せずに笑顔で送り出した妻、そして、その姿を見て、清々しい笑顔で自ら颯爽と歩いて死ににゆく秋谷。
父の死に際し、父に恥じぬ武士にならねば、と、涙することなく立派な侍の心根を持って元服した息子。
そして、秋谷亡き後の戸田一族を任された庄三郎。
一人ひとりが大きく成長し、重い現実を背負い、されども前を向いて雄々しく生きることに徹する姿は、腹を切りに行く秋谷と同様に、清々しく、そして、華やかだったよ。
派手な場面は一つも無く、ただただ、最小限の台詞のみで語り、登場人物皆が筋を通し、それぞれの苦悩を享受して生きる姿を淡々と描いた作品だったが、それゆえに、むしろ現実味も甚だしく、観ている私にも大いに学びがあったよ。
この映画は2014年のものだそうだが、本作に限らず、昨今の役所さんを見るにつけ、本当に良い俳優になられたと切に感じるよ。
若いアイドルばかりが起用される昨今、彼ひとり名優の道を歩かれておられることに深い喜びを感じるよ。
兎も角、素晴らしい映画を観せて頂いたことに感謝をしたい。