ハター

ダラス・バイヤーズクラブのハターのレビュー・感想・評価

ダラス・バイヤーズクラブ(2013年製作の映画)
4.3
公開を楽しみにしていた作品。
特異なキャラクターを演じた俳優陣が印象的でした。アメリカ南部の褪せた空気感が画の端々を覆う中、異色を放っていたのはゲイキャラを演じたジャレット・レト。巧みな表情作りとリアルな仕草は確とそれを感じさせ、ゲイキャラ特有の派手なメイクとファッションは南部の渇いた地に咲く一輪の花とも喩えられます。また、メインキャストの中で唯一女性であるジェニファー・ガーナーの立ち位置は肝。本作では絵的な女性らしさを感じさせない位置にいる為か、ジャレット・レトの存在は作中を通して大いに引き立てられていました。彼が本作のヒロインと言っても過言ではないでしょう。
それを巧く引き立てた音楽も素晴らしい。特にT.RexのLife Is Strangeのパンチ力。「ああ、俺の人生は奇妙だ」 ミドルテンポでシンプルな曲構成の中、数奇な運命を表している詩を語るマーク・ボランの歌声はどこか官能的な匂いを感じさせます。 作品の舞台とテーマ上、カントリーやブルース色が強いかと思いきや、場面及び雰囲気に見合った選曲は全体的に按排が良い。

そして何より、大幅な減量をし、エイズ患者のカウボーイを演じたマシュー・マコノヒー。彼は確かにそこに君臨していました。酒、女、薬を常とした体たらくな装いは決して万人に好かれる人物像ではない。そんな男が、悲運に見舞われつつも、死なない為にひたすらがむしゃら進む。その赫然たる姿を目前にしていると気づけば情が移っている。元来アウトロー気質の男が、御都合主義の体制に真っ向から挑む姿は『カッコーの巣の上で』のジャック・ニコルソンを彷彿とさせました。気のみ気のままに生きてきた輩が見せる最後の悪あがきはやがて正義として象られていき、それはただただ真っすぐ訴えてきた。そして、自然と涙を誘われる。
ハター

ハター