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ダラス・バイヤーズクラブのpanpieのレビュー・感想・評価

ダラス・バイヤーズクラブ(2013年製作の映画)
5.0
驚異的に痩せてる!
今作を観て最初に思ったのは主演のマシュー・マコノヒーの役作りの為激痩せした姿に驚きが走った。
今作の役作りで21キロ減量したというから彼の本気が伝わってくる。
1キロ痩せた、1キロ太ったと一喜一憂している私とは大違いで役作りの為とは言えこれ以上痩せたら死んでしまうのでは?と死の淵を彷徨っているかのような彼の痩せ方に驚愕した。
本当にAIDS患者に見える!


1985年テキサス州ダラス。
無類の女好きでゲイを嫌悪し酒とタバコ、ドラッグ漬けの日々を送っているロン・ウッドルーフはロデオで賭けに負けた途端金を持ち逃げしようとするサイテーのクズ男だ。
ある日止まらないしつこい咳が続きやがて耳鳴りがし始め倒れてしまう。
でも目覚めたら何事も無かったかのように酒を飲む。

タフガイのイメージの強かったロック・ハドソンがゲイであるとカミングアウトした事は当時世間に衝撃を与え今作の冒頭に新聞記事が出てくる。
ハドソンは有名人で初めてカミングアウトした人物で同年に亡くなっている。

仕事中感電し病院で目覚めたロンは医師から信じられない検査結果を告げられる。
「検査の結果HIVが陽性です。」
「T細胞の数値が9しかない。
健康体であれば500〜1500あるのに生きていることが驚きだ。」と。
「あなたの余命は30日です。」

ロンは半信半疑で図書館へ行き調べ始める。
静脈注射によるドラッグや同性との性行為はロンには当てはまらないが一つ驚愕の真実が!
避妊しない異性間との性行為も感染すると分かったのだ!
セックスした相手の女の腕に無数の注射痕があったことを思い出す。
頭を抱えるロン。
静かな図書館で「FUCK YOU!」と叫ぶ。

「AIDSは触れるだけでうつる」
「ゲイの病気」
当時は一般的にそう信じられていたらしい。
ロンは自分はゲイではないのでHIVが陽性と言われてもまだ信じる事が出来ない。
事故の後休みを取り同僚のTJに打ち明けると女好きだしあり得ないと笑っていたが何日か後にいつもの酒場へ行くと飲み仲間の同僚の態度が違っていた!
TJが喋ったようで同僚にゲイ扱いされる。
怒ったロンは唾を吐きかける。
これで移ったのでは?と慌てる同僚達。

水面下では病院の医師達と製薬会社間で賄賂の授受が行われていた。
抗癌剤として開発されたAZT(アジドチミジン)を動物実験の結果T細胞免疫が回復したので病院で臨床して欲しいと製薬会社からの打診。
イブ・サックス医師だけが毒性の割に効果が無かったはずと噛み付くが他の医者達は賄賂を貰えることにほくそ笑んでいる。
納得がいかない彼女は上司のセバード医師に詰め寄るが臨床が決定されることに。
やっぱりお金なんだね。
中には本物の医者もいるけどすがりつきたい患者に良くなるかも分からない薬を効くと信じさせクズ医者達の懐にはお金が入る。
裏社会の方程式。
本当に悔しい。

ロンは藁をも掴む気持ちで最初に受診したセバード医師に面会を求めるが不在で同じく立ち会っていたイブに診てもらうことに。
金を払うから薬を回してくれ!
懇願するロンにイブは薬の効果が証明されれば処方出来るがFDA(アメリカ食品医薬品局)が承認していない薬はダメとロンに教える。
AZTに効果があるという偽情報を偽とは知らずロンは病院で清掃の仕事をしていた男から裏で金を払いAZTを横流ししてもらう事に。
AZTを飲んでもロンの生活は全く変わらない。
むしろ薬に頼って飲んでいるから大丈夫と言わんばかりに酒に溺れている。
ある日管理が厳しくなったからもう無理と男からメキシコの医師を紹介されまた倒れてしまう。

検査の結果AZTが体内から発見されセバード医師から詰め寄られるがシラを切るロン。
そこでゲイのレイヨンと出会う。
レイヨンはAZTの臨床患者だった。
金を払うから分けて欲しいと懇願するロン。
悪いが他に分けてる人がいるからと申し訳なさそうに断るレイヨン。
ロンはイブの制止も聞かず病院を立ち去る。
家へ帰ると壁に「FAGGOT BLOOD」と書かれている。
ゲイを蔑む言葉だ。
「まだ俺は死んでないぞ!」ロンは心の限り叫ぶ。
魂の叫び。
心は決まった。
もうここに俺の居場所はない。
ロンは失意のうちに住み慣れた我が家を後にする。
一路メキシコへ!

余命宣告を受けてちょうど30日目ロンはメキシコで医師免許を剥奪されたヴァス医師からコカイン、アルコール、メタンフェタミン、AZTのやり過ぎが免疫系にダメージを与えている事を教えられ回復の為にビタミン剤、亜鉛、アロエ、必須脂肪酸を取るように教えられる。
今迄自分がやってきた数々の愚行や間違った対処法で死の淵ギリギリの所へ来てしまっていた事を知り驚愕するロン。
3ヶ月後T細胞が増えていることが分かった。
さぁ治療の開始だ!
アメリカでは未承認のddcやペプチドTの投与を開始する。
免疫系が上がり激痩せよりは少しだけふっくらした様子が伺えロンは神父に化けてたくさんの薬を持っていざメキシコ国境へ!
FDAのバークレーに怪しまれるが自分は癌患者だと嘘をつき何とか入国する事が出来た。
持ち込んだ薬は勿論自分にも必要だがそこは転んでタダじゃ起き上がらないロンだ。
薬の販売は違法だが会員権を月400ドルで売って薬を無料で配る事を思いつく。
ダラスバイヤーズクラブの始まりだ!
だが得てして嫌いなゲイ達が相手の為同じ病気だかお前らとは違うんだ!という上から目線でいるので上手く広める事が出来ない。
そんな時病院で出会ったレイヨンと運命的な再会を果たす。
レイヨンはゲイだしゲイ達の扱いも上手く取引を増やしロンのビジネスパートナーになる。
ロンは自身の経験から会員達にAZTをやめさせ様々なアドバイスをし少しずつ会員を増やしていく。

ゲイ嫌いのロンの言葉は辛辣で二人はお互い歩み寄る事はまだないがある日スーパーマーケットでかつての同僚TJに会う。
ロンと一緒にいるレイヨンに挨拶もせず握手もしないTJを後ろから羽交い締めにし失礼だから握手しろと無理やり握手させる。
ビジネスパートナーになると契約?した時にロン自身がレイヨンと握手を拒んだのに。
その時きっとレイヨンは凄く嬉しそうでロンを好きになったように見えた。
TJにあんな仕打ちをされたからだけなのだがゲイ嫌いのロンが取った行動はレイヨンに響いたに違いない。
ジャレット・レトの女性のような眼差しにうるっと来た。
気持ち分かる〜!
それは惚れるわ。

ここで日本人登場!
インターフェロンを発見したのは日本人で(知らなかった!)1980年に入ってから抗癌剤としてやっと大量生産が出来るようになったという背景がありそれを買う為にロンは日本へも行く。
だがわざわざ行ったのに日本人の医師にしか売ることが出来ないと知りそこで登場する医師のヒロシはロンからお金を受け取ったらしく電話でインターフェロン2000本を発注する!
クズだけど許す!
いいぞヒロシ!笑

今迄病院でAZTを処方されていた患者達がこぞってダラスバイヤーズクラブへ鞍替えし病院はもぬけの殻!
イブはロンが始めた商売を知り怒りを露わにするがロンから論文の写しや話を聞いて行くうちにAZT使用を疑問視するようになる。
イブは性根の腐った医師では無く患者に寄り添い助けたいが為にロンを非難できずでも医師という立場もあり苦悩する。

イブとロンの二人のシーンは泣けた。
イブに人生は一度きりでもうやり直す事は出来ないけれど子供も欲しかったし今までの自分の生き方を反省し他人の人生も生きてみたかったと話す所は沁みた。
死なない事に必死で生きている気がしないという台詞が印象的だった。

そして益々FDAはロンを追い詰めて行く…



観ていてFDAはロンが自分達のルールを脅かすからという唯一点だけで排除したくて仕方が無く追い詰めて行くようにしか見えず一体誰の為の機関なのか分からなくなる。
国の機関であったり役所であったり何故困った人の為に動かないのかいつも疑問だ。
人の命がかかっているのに自分の私服を肥やす事しか考えていなくてあんた達がAIDSになればいい!と短絡的だが思ってしまった。
自分のケツに火がつかないと人間立ち上がらないんだ。
「わたしはダニエル・ブレイク」でも思ったが役人は自分には関係ないし明日の生活に困ったりしないもの。
長い物に巻かれている方が楽だしお金が貰えるのだから誰も正義感の為だけに自分が排除されてまで立ち上がることはしないだろう。
悲しくて本当に腹が立った。

ロンは実在の人物だがロンもはじめは自分の私服を肥やす事しか考えないクソ野郎だったけど段々と自分の為だけじゃ無く危険を犯してまでメキシコへ行ったり来たりしてそれはもう対国、対病院、対製薬会社への意地を通しているようだが嫌いだったゲイに対して同じ人間として仲間として最後はお金も受け取らず本物の偉人になった。
自分が死から逃れたい為だけに調べ始めた知識は医者を遥かに凌ぐ程の知識で彼が伝説になるのも頷ける。
だって自分の命がかかっているんだから。
ある意味病院の清掃係の男からメキシコへ行けと言われた事がロンを使命感に駆りたてたのではないか?
人間は進むべき方向へ導かれているのだなと思った。
あらら、何だか信仰じみている?笑
私は前にも言ったけど無宗教です。でも無神論者ではありません。笑

役作りの為にマシュー・マコノヒーは21キロ、ジャレット・レトは
18キロ減量したというのには驚愕した。
迫真の演技!
マシュー・マコノヒーは「評決の時」しか記憶にない。
特にタイプでも無く最近「ニュートンナイト」の予告を観たぐらいしか知らない。(ごめんなさい)
もうロン本人としか思えない。
ジャレット・レトに至っては出演作も彼がバンドのボーカリストという事も彼が現在45歳という事も後で知ってとても驚いた!
劇中Tレックスの曲に合わせて踊る恋人を見ながら咳き込んで血を吐き「I don't wanna die…」と泣く演技には涙が溢れた。
俳優が本業ではない事に驚きを隠せない!
二人共アカデミー賞受賞は頷けるし当たり前だ。
本当に素晴らしい演技で魅了され何度涙したことか!
今作もレビューする迄何度観たか分からない。笑
病気です。(^◇^;)

遅ればせ彼らの出演作を観よう。
やはりヴァレ監督は素晴らしかった。
彼の他の作品も振り返りたい。
でもヴァレ監督と言えばまた「雨の日は君に会えない〜」を観たくなる。(出た!病気!)

劇中挿入歌で印象的だったのがTレックスのLife is Strangeだった。
昔Get It OnやTelegram SamやMetal Guru、Jeepstar、20th Century Boyなど代表曲を少し聴きかじっただけのエセファンでしたがこれを機会に聴いてみようかなと思う。

ああ、凄いものを観てしまった。
益々「ムーンライト」のレビューが出来ない。笑
Filmarksでオススメいただいた今作。
また未見の秀作を探したい。
panpie

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