サマセット7

イコライザーのサマセット7のレビュー・感想・評価

イコライザー(2014年製作の映画)
3.8
監督は「トレーニングデイ」「マグニフィセント・セブン」のアントワーン・フークア。
主演は「マルコムX」「トレーニングデイ」のデンゼル・ワシントン。

[あらすじ]
ホームセンターに勤める店員ロバート・マッコール(デンゼル・ワシントン)の過去は、同僚の誰も知らない。
マッコールは常連となっているナイト・バーで、娼婦のアリーナ(クロエ・グレース・モレッツ)と知り合い、友人となる。
アリーナは元締めのロシアンマフィアから暴力で支配されており、ついには入院する事態になる。
そのことを知ったマッコールは、単独でロシアンマフィアの巣窟に乗り込み、恐るべき殺しの技倆を見せつける…。

[情報]
2014年公開のアメリカ映画。
80年代のテレビドラマシリーズ「ザ・シークレットハンター」を原案にしている、らしい。
司法の手の及ばぬ悪を、圧倒的な武力を持つ個人が成敗する、という、いわゆるヴィジランテものの、アクションスリラー映画である。

B級アクション映画によくありそうな設定だが、今作では、アカデミー賞俳優のデンゼル・ワシントンが主演を務める点に、最大の特徴がある。
今作の監督アントワーン・フークアは、デンゼル・ワシントンが主演してアカデミー賞主演男優賞を受賞した「トレーニングデイ」の監督でもある。

デンゼル・ワシントンといえば、ハリウッドを代表する名優の1人。
従来ハリウッドでは、人種差別的偏見から、アフリカ系俳優の役が、召使、奴隷、チンピラなどの脇役、あるいはコメディ俳優向けのコミカルな役しか用意されていなかった。
デンゼル・ワシントンは知的、冷静、誇り高いといった特徴を持つ役を歴任し、アフリカ系俳優の地位を大幅に拡張した。
グローリー、マルコムX、ペリカン文書、フィラデルフィアなどなど、社会派の役を主演級で演じてきた。

知的で冷静な風貌と演技は、ミステリアスさと独特の凄みにつながる。
今作では、市井に生きる殺しの達人を演じて、独特のヒーロー像を生み出している。

今作は、5500万ドルの製作費で作られ、興収は1億9000万ドル強の大ヒットとなった。
ジャンル映画なりだが、一般層中心に好評を得た。
「96時間」や「ジョン・ウィック」など、ベテランになったレジェンド級俳優が主演を務める近年のアクション映画と並べて言及されることが多い。

[見どころ]
ホームセンターにデンゼル・ワシントンが勤務している違和感!!
彼の凄みが、今作の全て!!
ほぼ銃を使わず、その場にある物で始末をつける殺人術!!
ホームセンターは彼の殺し道具の宝庫!!!
殺しが始まるまでに、タメにタメる、アントワーン・フークア監督の演出!!
始末の前に、一度チャンスを与えるこだわり!
殺しが始まった後は、ほぼスラッシャー映画だ!!

[感想]
好きなやつです!!
ジョン・ウィックなどと比べると全体に地味な印象だが、それはそれで良し!!!

いわゆるジャンル映画である。
主人公は、実は殺人術の達人であるが、普段は市井で普通の生活をしている。
何らかの理由でトラブルが発生し、主人公はその武力で問題を解決する。
通常は狩る側の敵サイドからすると、まさかその主人公から狩られるとは思っておらず、その「ギョッと」する感じに、ザマアミロ!という快感がある。
ランボーや必殺仕事人、スティーブン・セガールを例に挙げるまでもなく、昔からある、お約束のパターンの一つであろう。

視聴を始める前から、だいたいどういうストーリーかは分かっている。
したがって、その作品ならではの「何か」があるか?という点が、そのまま見どころになる。

近年この類型の作品が人気が出て、シリーズ化される傾向が進んでいる。
代表的なのが、今作と、「96時間」シリーズ、そして「ジョン・ウィック」シリーズなわけだが、シリーズごとのカラーを決める最大のポイントは、主演俳優のキャラクターにあろう。
リーアム・ニーソンの特徴は大きな体格と困り顔にあり、その結果、父親として囚われの娘をを救出する。アクションには体格を活かす。
キアヌ・リーブスの特徴は、端正な憂い含みの顔面にあり、その結果、犬を殺されて復讐のために暴走する。アクションは運動能力を活かし、機敏でリアリティ重視。
では、今作は?

デンゼル・ワシントンの特徴は、冷静沈着で知的な風貌と演技力にある。
彼が無表情で立っていると、それだけで凄みがある。
何なら、ちょっと怖い。
このキャラクターは、すでに知的な演技で名声を築いた彼のキャリアと無関係ではない。
観客は、無意識に、彼に後光を感じてしまう。
今作は、そんなデンゼル・ワシントンのキャラクターを十全に活用する。

ロバート・マッコールは、普段は知的で優しい。
しかし、こと殺しの技量を発揮する段階になった時、その身に纏うのは、機械のような冷酷さだ。
効率のみを追求したアクションのスタイルや、その場にあるものを無駄なく活用する知性も、役者のキャラクターに沿っている。
一度はチャンスを与えるスタイル!視線と分析!!ストップウォッチ!!!
趣味は文学作品!
「老人と海」!「見えない人間」!

彼の動機は、「正義の追求」。
いわば、綺麗事のお題目だが、そのお題目の実現には、過剰な暴力が活用される。
そのどこか不気味な印象。

普段のマッコールは、お節介焼きの人のいいオジさん、という感じだが、嫌味がないのは役者の人柄だろう。

マッコールは、最終的に、ヴィジランテ(自警団)的な存在となっていくが、法に縛られぬ自警団的活動には、狂気が付随する。
終盤、彼の「正義の執行」は、武器の選択や闇の中で行なわれることも含めて、もはやスラッシャーホラーの趣がある。
彼は、まるでブギーマンやジェイソンであるかのように、無表情に効率的に、「執行」を進める。
もはや、その段階のマッコールにはサイコパス味すら感じる。

アントワーン・フークア監督は、自身アフリカ系で、アクション・スリラー映画の監督として知られる。
彼は自身の作品「トレーニングデイ」でデンゼル・ワシントンに、アフリカ系俳優としては史上2人目のオスカー主演男優賞を獲らせているが、同作でデンゼルが演じた役も、いわゆる「善い人」の役とはほど遠かった。
同監督は、昔から、デンゼル・ワシントンという俳優の醸し出す、超然とした雰囲気に注目して、それを活かしてきた、のかもしれない。

今作には、「キック・アス」のヒットガール役で人気のクロエ・グレース・モレッツも出ているが、出番はそれほど多くはなく、あまり印象に残らない。

むしろ、敵の「解決屋」を演じるマートン・ソーカスが、かなりクレイジーでいい味を出している。
中盤までの強敵感にはなかなかのものがある。
しかし、主人公が強すぎるため、終盤かませ犬感が出るのが残念なところ。
今作は、マッコールの危機にハラハラするスリラー、というよりも、マッコールに狩られるマフィアたちの危機にハラハラするスリラー、かもしれない。

そのようなわけで、今作は、デンゼル・ワシントンの陰の魅力を活かした作品である。
ジャンル作品だけに一定の面白さは保証されており、バイオレンス描写に耐性があるなら、何も考えずに観るには、悪くない選択肢だろう。

[テーマ考]
今作はジャンル映画であり、テーマ性を云々するのは無益である。
特に今作にはその傾向が強い。

ヴィジランテ映画は、銃社会アメリカの個人主義の極致を描いて社会批評性を出す伝統がある、と勝手に思っている。
が、今作では社会批評的な印象は薄い。
マッコールはほとんど銃を使わないし、狂気の描写も例えばタクシードライバーなどと比べると、ほぼ無いに等しい。
とはいえ、上述したマッコールのサイコパス味に、薄っすらとこの伝統が感じられるか。

また、アフリカ系監督、アフリカ系主演俳優とくれば、何らかの人種差別に対する批評が入りそうなものだが、今作ではそういったメッセージ性もほぼ感じられ無い。

中途半端なテーマ性を排して、ジャンルとしての面白さと、デンゼル・ワシントンのキャラクターに集中させる、という意味では、潔い作品と言えるかもしれない。

あえて言うなら、マッコールが、アリーナや敵に伝える各種名言にテーマ性があっただろうか?
やるべきことをやれ、とか。
人間はなりたい者になれる、とか。
ただ、その言った口で仕出かすのが大量殺人、というのは、説得力があるのかないのか…。
高度なギャグか、サイコパス味の演出、と受け取ってしまったが、意外と良いこと言ってたかもしれない…(うろ覚え)。

他方、製作上のテーマは明確だ。
すなわち、「デンゼル・ワシントン兄さん、かっこよすぎて怖えええええ!!!!」である。

[まとめ]
ホームセンター店員のデンゼル・ワシントンが大暴れする、自警団ものアクションスリラーの快作。

今作は人気を受けてシリーズ化され、2018年には第二作目が公開。
ほぼ一作目と変わらぬヒットとなった。
今年2023年9月には、待望の第3作目が公開予定だ。
劇場まで行くかはともかく、シリーズは追いかけたい。