こたつむり

天才スピヴェットのこたつむりのレビュー・感想・評価

天才スピヴェット(2013年製作の映画)
4.1
★ 10歳の少年が辿る再生の旅路

いやぁ。これはいい!いいですよ!
端的に言えば、自他ともに認める《天才少年》が“受賞式”に出るために、西部のモンタナから東部のワシントンまで旅する物語…なのですが、描かれるのは物理的だけではなく“心の旅路”。

だから、流れていく情景は全て美しく。
目も鮮やかな夕陽だったり、束の間の紺碧だったり、雄大に聳える摩天楼だったり。

また、旅に用いるのが貨物列車というのも独特。たぶん日本やヨーロッパでは無理ですよね。アメリカの広大さと“適当さ”があるからこそ成り立つ展開。うん。僕も旅をしてホットドッグを食べたくなりました。

このアメリカの広さを描いたのが、フランス人であるジャン=ピエール・ジュネ監督というのも面白い話です。何しろ、アメリカとフランスは文化的に“犬猿の仲”が定説。監督さん特有のブラックな表現で茶化しても不思議ではありません。

しかし、監督さんが選んだ方向は真正面。
マクロな視点からミクロの視点まで“遊び心たっぷりの演出”を用いてアメリカを描いているのです。いやぁ。広大な大地に負けず劣らず、懐が深い監督さんですな。

しかも、根底に流れているのは“哀しみ”。
口の中が塩辛くなりそうな要素があるからこそ、表層に溢れ返る優しさに奥行きが生まれるのです。

何よりも主人公のカイル・キャトレット。
ごくごく普通に見える彼を中心に据えたことで、ファンタジーな彩りが強い作品に“親しみ”を感じるのも愉悦の如く。《お母さん》役を演じたヘレナ・ボナム=カーターとの相性も抜群に良かったですね。

まあ、そんなわけで。
独特のユーモアに彩られた“家族”の物語。
止まない雨はなく、明けない夜はなく。
死に至らなければ埋まらない傷痕などないのです。

そして、歪だとしても孔を埋めたから現在進行形。じわりじわりと観ている側の心も満たしてくれる作品でした。『アメリ』同様に人を選ぶ筆致ですが、テケテケ感に抵抗が無ければ全力でおススメしたいですね。
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