三畳

リトル・フォレスト 夏・秋の三畳のレビュー・感想・評価

4.8
「何でも自分でやってみたい」この感覚とってもわかる!

自分も初めて一人暮らしした時は、何でも簡単に手に入るこのご時世なのに、やたら手作りにこだわって、
料理はもちろんのこと、家具を作ったり、服を作ったり、友達と畑を借りて野菜を作った時期もあったり、鶏の屠殺も自分の手でやらせてもらったことがある。
(生きてるのを抱っこして首をかっ切り、吊るして血を抜いて、茹でて羽をむしるあたりから、"ニワトリさん"が"鶏肉"になる。カツや焼き鳥や鶏皮せんべいに調理し、ごちそうさま)

山で拾った栗で渋皮煮、試行錯誤するのもやったなぁ。楊枝で皮とる時穴を開けちゃうと水が入って美味しさ半減。マロングラッセと言い張ったりクリームにしたりモンブランにしたり形態を変えて楽しむ。今の今まで忘れてた。

栗以外のそれらの素材はしょせん、流通されてきたものだし、いろんな機会をつまみ食いできる現代のありがたさだから、
自分でゼロから生み出したとは言い難いけど、たとえ最後の方ちょこっとだけでも私の手を通ってくれたものは、大切に味わえる。

また、しょせん私のは一過性の体験にすぎなくて、この映画のように毎日毎年積み重ねる暮らしとは雲泥の差がある。だからといって、無意味でもなく、全く体験しないのとも雲泥の差があることも知れた。

作った方が安上がりならともかく、全然そんなことはなく、出来合いのものの方がはるかに安く早く良くできてるのに、
何で自分でコストをかけるのかわからなくなって、最近はすっかりやらなくなったけど、登場人物の台詞からかつての大切な感覚を思い出した。

"自分の体で体験して、そこで感じたこと・考えたこと。自分の責任で話せるのなんてそれくらい。それがたくさんある人を尊敬するし、信頼する。でも、人が作ったものを右から左へ流してるだけで偉そうに喋ってる人ばかり。"

その通りだなぁ、私が聞きたいことだって。
芸能人の誰々がこう言いました、それが話題で世間ではこういう反応らしいよ、っていう記事がネットでバズってます、って特集するテレビのような、又聞きのマトリョーシカには反吐がでる。

今あなたがどう思ってるか?そのワイドショーでテロップつけた編集さん、ニュース記事書いた奴、リツイートした「世間」のみなさん一人ひとりが

昨日のごはん何食べた、どんな味と香りでどんな食器で…とかそういうことの方がずっと興味深いし、
私もなるべく自分の言葉で話せない人間になりたくない。

なんだか映画と程遠いスケールの小さい話になってしまいましたが…
農業まで広げなくても通ずることだなぁと思いました。

料理のナレーションはこの世界の片隅にのすずさんを思い出す。独り言が増える一人暮らしを自然に好演してる橋本愛さん。

古そうな家で、調理用具や農業の道具がやけにきれいなことに最初は不信感を抱きかけたけど、きちんと手入れしてるシーンもそれとなく挟み込まれ、この人を好きになる。そんなふうに丁寧に作られたこの映画も好き。
三畳

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