マルメラ

紙の月のマルメラのレビュー・感想・評価

紙の月(2014年製作の映画)
3.8

桐島の吉田大八監督作品。
流石!!吉田監督!!とても面白かった。
この映画の魅力を一言で表すなら「一線を越える瞬間と覚悟」だと感じだ。

まず、主婦の日常の描写。
商社マンらしき夫。
自分で使うお金が欲しいから銀行でパートとして働き始め、派遣社員になった妻。
時代もあったのだろう。結婚したら家庭に入る。
子供に恵まれず、マジメに専業主婦として働いてきた妻が、ようやく自分で稼いだお金で自分の好きなものを買う。
その好きなものが、旦那とのペアウォッチ。
それを旦那は安物として喜んでくれない。

起承転結の起にあたる部分が、少し退屈に感じたが、まぁセットアップなので仕方ないか。

主婦の日常の鬱憤を積み重ね、一線を越える瞬間が訪れる。
自分の好きに使おうと高級な化粧品を買おうとするも、普段買わないから値段の相場がわからない。
会計時に金額が足りなくて困る。
その場にあったお客様の預金に手を出してしまう。
ここの、鞄を見て葛藤するシーン。
主人公に初めて選択を突きつけ、そして一線を越える。

濡れ場役者池松壮亮と不倫に至る動機が、あまりにも弱いというか。
その一線を越える描写がおざなりな気もしなくもない。
ジジイに手をつけられそうになり、それを助けてくれたから?
おそらく理由としては「自分を見てくれている」つまりは、承認欲求だと思う。
夫に認められていない。つまりは自分を見てくれていない。という悩みからの不倫。
だとしても、この不倫に同調できる観客は少ないのでは?
もう少し何か決定打が欲しかった。

そこからの、横領の流れは恐ろしい。
「もう、止めときなって」と観客が感じる中、主人公は突き進んでいく。
また、その突き進まざるを得なくなるのが、池松壮亮に200万を貸すためのBMWの嘘であり、自分のついた嘘にがんじがらめになっていき、戻れなくなっていく様が見事。
消費の快楽に酔いしれていく主人公。
お金持ちと嘘をついた手前、高級なホテル、食事、パソコン、ワインセラー、時計、行き着く先は家までも。
もう、「どうしうもないな、こいつ」っていうところまで落ちていく。

主人公の変化を時計で表現していたのが良かった。
見事!!

ただ、主人公を応援できないのは仕方ないかな。
感情移入をさせるようには意図的に作っていないので、あくまでも1人の平凡な主婦が一線を越えていく様を描いた作品だからだ。
それが、この映画の好き嫌いに大きく差をつけていると思う。
例えば不倫をする主人公に感情移入させるなら、夫から誰が見ても分かるように虐げられているとか。DVを受けているとか。
子供ができなかったのはお前のせいだ的なことを言われているとか。
やり方は無限にある。
それを敢えて、先述したような日常の鬱憤程度の不和に留めておいている。
このリアルさこそが良いと自分は感じました。
まぁ、不倫に至る動機なんてそんなもんでしょ笑

池松壮亮との関係性をドアや電車、ホームといった距離感で表してるのが見事。
まず、改札。
改札を隔てて会話する2人。
そこには改札という距離感がある。

追いかけてくる池松壮亮。
座席を挟んで電車に揺られる2人。
ホームに降り、後ろを振り向くとそこにはいない。
距離感が近くなるのかと思いきや、近づかない。

また、ホームで会う2人。
今度は線路を挟んでいる。
電車が来て姿がいなくなる宮沢りえ。
しかし、そこで階段から現れる。
距離感が無くなる瞬間だ。

オープンテラスでの食事。
「こっち寄れば?」という宮沢りえに対して、「大丈夫」と距離を詰めようとしない池松壮亮。
つまりは、距離が離れ始める瞬間だ。

池松壮亮の浮気がバレる瞬間。
今度は廊下とリビングのドアが2人を隔てている。
距離感がまた生まれた証拠。

謝りに自宅に池松壮亮が来る。
今度もドアを隔てての会話。

まさに、映画的な見せ方。
相手との距離感を映像で表現する。
上手い!!!

ラストシーンも見事!!
窓を割り、逃げる宮沢りえ。
「一緒に来る?」
この台詞の上手さ!!
「あなたには一線を越える覚悟がある?」と問うているのだ。
それは小林聡美に言われたのではない。
観客に問いているのだ。
破滅する覚悟があるなら、一線を越えてみれば?という悪魔の囁き。
一線を越えるには「覚悟」を伴わなければいけない。
その「覚悟」無しに一線を越えるとどうなるか。それをこの映画で宮沢りえは体現してるように感じた。

また、窓ガラスの枠っていうのか。
あれが線になっていて、あそこを超えられるかどうか。
宮沢りえは越えて走っていく。
一線の描き方として上手い!!!
(似たようなことを「そこのみにて光輝く」でも呉美保監督がやってました)

映画的な表現。脚本のうまさ。から高スコアをつけました。
まだまだ、大島優子のこととか、色々言いたいことはありますが。
長くなるので割愛。今でも十分長文ですが。
オススメです!!!
マルメラ

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