半兵衛

カラスの飼育の半兵衛のレビュー・感想・評価

カラスの飼育(1975年製作の映画)
4.2
『ミツバチのささやき』とこの作品の二本だけで伝説の女優となったアナ・トレント、演技力の高さとキャラクターのマッチングによるその瞬間のインパクトは芹明香に匹敵するはず。実際このときの彼女は繊細な演技と幼いのにどこか大人びた顔立ちによって、神々しいオーラを放つ女神のような存在になっている。

幼くして両親の死に立ち会い、複雑な大人の世界を覗いてしまった幼い頃の出来事を大人になった主人公が回想する残酷な『おもひでぽろぽろ』。幼少の思い出特有のノスタルジアと子供だったとき大人の世界を目撃したときのショッキングさ、夢と体験した現実の境界が曖昧になりない交ぜになった回想特有の世界…。絵本やテレビドラマのような作り物ではない、生々しい人間による過去の回想録がそこにはある。

子供特有の無邪気な残酷さが作品にスパイスとして効いていて、亡くなった母親から毒と聞かされていた粉を使って父親を殺害したと思った主人公の少女アナは特別な人間になったような気分になる。そこには子供の頃特別な力が自分にも存在すると信じていた根拠のない自信を持っていた自分が重なってくる。しかし後半の出来事によりそれが違ったことを知った彼女はまるで力を失ったかのようにそれまであった光輝く存在感を失い、普通の少女となって日常に埋没していく。きっと彼女は、他の人たちと同じように大人の世界を少しずつ理解して普通の大人になっていったのだろう。あの空中から遠すぎて見えなくなった主人公を追うラストカットは大人の自分から幼少の自分への決別にも思えてくる。

子供ならではの空間や大人のいる空気感など人間の息づかいを感じさせる空間が存在する美術や、それを切り取るカメラワークが見事。

主人公の母親と大人になった主人公の二役を演じるジュラルディン・チャップリンの巧妙な演技も印象的、中でも治らない病気になり苦痛による死への願望や絶望感をむき出しにした迫真の演技に目を見張る。
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