乙郎さん

わたしたちに許された特別な時間の終わりの乙郎さんのレビュー・感想・評価

3.0
自死したミュージシャンの青年を生前から交流があった作家ぎ監督したドキュメンタリー。と書いて、果たしてそんなものが成立するのだろうかと思ったし、観終わっても果たして成立できたのか、受け止めきれない。
他の映画に真剣に向き合っていないわけではないけれど、この作品にはどうしても真剣な向き合い方が要求される。『佐々木、イン、マイマイン』を地で行くような青春映画として、希死念慮に日々脅かされる人間として、才能、故郷、2010年代。
この映画が、娯楽に舵を取るたびに、素敵なロケーションに出くわすたびに、あるいは、スローモーションなどの「演出」をかけるたびに、果たしてこれが死者に対しての冒涜になっていないか頭をよぎる。きっと何も関係のない私が口を挟むことではない。
ならば、私はどこにいる。本当は観客などを置き去りにして監督個人の追悼のために作られた映画か。あるいは、普遍化して自分の物語に組み入れることさえも失礼なのか。私には答えが出せなかった。

監督の煩悶がフィクションパートとして入っているのは『監督失格』を思わせる。仮に、私が同じ立場でも、私がこの死に対してどう考えているかを入れるだろう。それは喪の作業として、なのか、それともまた別のものなのか。
乙郎さん

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