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フレンチアルプスで起きたことのfujisanのレビュー・感想・評価

3.9
苦笑いが止まらないブラックコメディでした。

今年もいつの間にか三ヶ月になり、今年観た映画の中で一番印象に残ってる映画は何かなーと考えると、意外にも「逆転のトライアングル」でした。

エブエブのような爽快感とか感動は全く無い映画でしたが、あの、ネチネチと、傷口にグリグリと塩を塗り込むような作風、嫌いじゃないんですよね。

ということで、リューベン・オストルンド監督の過去作品は一通り観てみようと思っています。

まずは「フレンチアルプスで起きたこと」。

家族の前で見せてしまった父親としての失態がもとで、徐々に夫婦関係や家族関係がおかしくなっていく、という話。

父親は家族で訪れたスキーリゾート滞在中のレストランで妻や子供たちと昼食中に雪崩が発生。その時、思わず妻も子供も置いて、真っ先に逃げ出すっていう失態を犯します。

しかも、雪崩は本当の雪崩を防ぐために人工的に発生させている雪崩で、危なくないものでした。

はい、気まずいーーー😣

男として父親として明らかに見せてはいけない姿を家族に見られてしまった父親。

そして、妻はその夫の行動がどうしても許せず、楽しかったはずのリゾート旅行は一転して、何とも言えないギスギスした感情のやりとりが交錯する地獄絵図と化していきます。




「逆転のトライアングル」でも見せた、”情けない男性像”をこれでもかと見せつけてくる痛い作品。

「逆転のトライアングル」では、情けない男性像とともに、階級社会についての問題提起もありましたが、この作品はよりシンプルに「男らしさとはなにか」のみを問うものであったと思います。


昔に比べ、「女らしさとはなにか」が論じられることは増えたと思いますが、一方で「男らしさとはなにか」と言うのは、あまり語られません。

「女性は家に居て夫の帰りを待つ」なんて話は今では許されない女性感として語られますが、「男のくせに泣くな」とか、「男なんだからこれぐらいの荷物は持てるだろう」などの感覚は、当然のこととして残っているように思います。

「逆転のトライアングル」でも、若いモデルカップルが食事の会計で「なぜ男性だからって奢らなくちゃいけないんだ」って揉めるシーンがありますが、これって今まであまり触れてこられなかった、新鮮な語り口だったようにも思います。

今作で家族を見捨てて逃げようとした姿を見られた父親は、結局自分が取った行動が許せなくなり、それがもとで自己崩壊していってしまうわけで、ある意味、真面目な人なのかもしれません。


さて、映画は最後までネチネチと続いて行くのですが、リゾート滞在の最終日、ふたたび男としての行動が問われるシチュエーションがやってきます。

そのとき、父親、そして妻がとった行動とは。。ということで、そこから先はネタバレとして書くことにします。


先に感想ですが、この映画は、ぶっちゃけ「結局、お互い様みたいなところがあるんだから、寛容になろうよ」って言うメッセージなのかな、と思いました。

相変わらず、観ているこちらの感情を少しずつ 少しずつずらしていくような周到なテクニックを感じる映画ですが、やっぱ良いな、と思いました。次は、「スクエア」を観てみます(疲れるので少々間をおいて😅)



(以下はネタバレ)
















最後、吹雪の中で気がつけば妻が居ない、となるシーン。

結局父親は、今度こそ!って感じで、吹雪の中を妻を探しに行き、ヒーローのように妻を抱えて子どもたちの前に帰ってきます。

見事なまでの父親の復権!ってことですが、でもまぁこれ、明らかに妻の演技なんですよね。お姫様抱っこで連れてこられた妻はその後スタスタと歩いて自分のスキー板を取りに行ってるし・・😑

妻は見え見えの救出劇を演じ、夫のプライドを復活させるわけです。
(ここの部分は、子どもたちのために夫婦で演じたという意見もあるみたいですが、私はこの夫はそこまで賢くない派です😅)


そして本当のラスト、下山バスの下手くそな運転に恐怖を感じた妻は、今度は子供を置いて、さっさとバスから逃げ出してしまう。つまり、夫と同じ行動を自分が取ってしまうわけです。

それを見た夫は怒るでもなく、、、ただ、今まで家族の前では吸わなかったタバコを吸う、ということで、最後まで痛々しい感じで、映画は終わります😑




余談

後輩夫婦の話ですが、奥さんが産気づいた時に居酒屋で酔っ払っていて電話に気づかず出産に立ち会えなかった夫君は10年ぐらい経った今でもたまに「この人はね・・」って言われてます。

これって、死ぬまで言われるやつなのかな・・😓


おしまい。
(ゲロ🤮とうんこ💩がなかった分、+0.1して3.9にしました)




2023年 Mark!した映画:96本

4以上を付けたのは12本

4.2 スリー・ビルボード
4.2 インビジブル・ゲスト
4.1 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
4.1 ブレードランナー 2049
4.1 NOPE/ノープ
4.0 ザ・コンサルタント
4.0 サイド・エフェクト
4.0 ヘルドッグス(邦画)
4.0 ブラッド・ダイヤモンド
4.0 灼熱の魂
4.0 ANNA/アナ
4.0 ある男(邦画)
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