回想シーンでご飯3杯いける

オマールの壁の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

オマールの壁(2013年製作の映画)
3.6
長く占領状態が続くパレスチナの分離壁と、そこで生きる男女の恋愛、友情を描いた作品。

パン職人のオマールは仲間とイスラエル兵射殺を遂行。実行犯ではなかった彼が拘束され、秘密警察から友人を捕まえる為ためのスパイになるよう打診される。このまま自らが終身刑となるのか、友人を売って自由の身になるのかという葛藤に苦しむ彼に対して、恋人や友人からスパイとして疑われ、板ばさみの状態になってしまう。イスラエル秘密警察の巧みな策略により音を立てて崩れていくオマール周辺の人間関係。その描写が生々しい。

邦題になっている「壁」のインパクトが強く、社会派ドラマのイメージばかりで捉えがちだが、描かれている拘束の発端は、オマールを始めとする3人の若者による向こう見ずな射殺計画にあり、物語の主軸は、若さ故の衝動や疑念、葛藤にあると感じた(原題は"Omar"のみである)。その背景として、イスラエルによる占領があり、鑑賞後に僕達の心にメッセージを残す。

何しろ、終盤のとあるシーンを除いてBGMが全く挿入されない作品である。ドラマという陳腐な表現を超えた濃密な情景が刻まれている。