ぐりこ

はじまりのうたのぐりこのレビュー・感想・評価

はじまりのうた(2013年製作の映画)
4.5
ようやく観れた!いろんな人に勧められていたけれど、大切に観たくてずいぶん経ってしまった。
本当に心があたたかくなる作品で、ダンとグレタの出会いから音楽を通して育む信頼、それぞれ未来へ歩み出す2人に、最後の”オチ”まで含めて 完璧 だった。
まさに原題"Begin Again"そのものだった。
(邦題の「はじまりのうた」もとてもいいと思う。観終わってみれば"はじまりのうた"が物語を貫く1曲になっていた)

ジョン・カーニー監督作はシングストリートから入ったのだけど、この2作で完全に惚れちゃったな。


はじまりはバー。
仕事をクビになって地下鉄に飛び込むことすら考えていたダン(マーク・ラファロ)と恋人の陰で音楽的才能を搾取された上にその恋人を寝取られたグレタ(キーラ・ナイトレイ)、いずれもある意味どん底の2人が場末のバーで出会う。
親友スティーブ(ジェームズ・コーデン)にステージに引っ張り上げられて気乗りしないながらも歌うグレタをみたダンには、すでに彼女の歌がフルバンドに支えられたアレンジで聴こえていた。彼女こそ探し求めていたミュージシャンだと確信する。
これは酔っぱらっていたからなのか、それともやはりダンにはいい音を見出す才能があったからなのか、、作中では語られない。
いずれにしろ、ダンとグレタは運命的な出会いを果たしたし、奏者のいない楽器たちがひとりでに曲を奏でる画はのっけから素敵で、僕はもうこの段階で引き込まれていた。

そうしてダンはグレタにプロデュースを持ちかける。
当初は酔っぱらいの浮浪者のような(事実そうなのだが)ダンを警戒するグレタだったが、ダンの熱烈な誘いに応えてアルバムを作ることを決意する。

ここから物語は小気味よいテンポで進んでいく。
ダンが昔のツテをたどって、バンドの各パートにスペシャリストを揃えていく。
街中でのスリリングなゲリラレコーディングをする中で、2人の距離も縮まっていく。
そして、互いの夢や苦境も語り合って、また絆を強くした。
特にふたまたのイヤホンで夜のNYを歩く場面は本当に美しくて、
音楽の力を改めて信じさせてくれるようなシーンだった。

音楽好きの自分にとってもプレイリストを見せ合ったり、イヤホンを分け合うことって特別なことで、その瞬間すべてをシェアしてる気持ちになる。きっとジョンカーニー監督もそうなんじゃないかと思えた。
シングストリートでもそうだったけど、音楽への絶大な信頼が見てとれる。

クライマックスは、屋上でのレックシーン。
娘のバイオレット(ヘイリー・スタインフェルド)の決して上手ではないギターが最後のピースのようにハマり、ダンのベースと“バンドになる”瞬間は、屋上の隅に腰掛けて見ていた元妻ミリアム(キャサリン・キーナー)の目にはどう映ったろう。
一度は壊れた家族の再生の可能性を感じる、胸が熱くなるシーンだった。

一方のグレタも元恋人デイヴ(後で知ったけどMaroon5のアダム・レヴィーン!)のコンサートへ足を運び、共作した大切な曲が本来のグレタが望むアレンジで演奏されるところをみる。
グレタへのリスペクトと共に曲が紹介されたところも含め、こちらも人間関係の再生の可能性を示した。


そして最後に物語は2人の関係へフォーカスする。
本編の最後、別れ際にみせたダンの何とも言えない寂しそうな顔、
エンディングで元恋人のコンサートからの帰り道でダンと過ごした日々を思い出すグレタ、
それぞれお互いを今までと少し違う形のパートナーとして意識した瞬間があったように受け取った。

しかしダンは"家"へ帰ることを選択した。
2人は紙一重のところですれ違う。

そう、この映画、ダンとグレタが付き合うような安易な結末にはならなかった。
2人がこのままそれぞれの元の居場所に戻るとも限らないし、この先結ばれる可能性もあるのかもしれないが、2人が音楽を通じて強い絆で結ばれて、それぞれの人生をまさに”Begin Again”するまでを描いたということ。

せっかく作り上げた傑作アルバムを全世界に1ドルで公開しちゃったせいで(大痛快!)、ダンはクビAgainだし、グレタも音楽業界に喧嘩を売ってしまった。
それでも、未来は明るいと思えたとき感動して涙が出た。

何も具体的ではないけれど、間違いなく明るい未来に向けて2人が歩き始めたことを確信させてくれたジョン・カーニー監督の手腕に喝采を送りたい。あとニューヨーク行きたい。


【雑感】
・両親の言い争いを2階のベッドで聞くシーンやストリートでのレコーディングシーンはシングストリートを彷彿させた。
僕は観る順番が逆転したので、普通はシングストリートを観て「あ、はじまりのうたと同じ構図!」ってニヤリするんだろうな。
・アダム・レヴィーンのヒゲ面、あれはかわいそう。悪意あるだろ(笑)
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