猫とフェレットと暮らす人

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)の猫とフェレットと暮らす人のネタバレレビュー・内容・結末

4.4

このレビューはネタバレを含みます

えげつない程に映画への皮肉と愛情を込めた、主演のマイケル・キートンの演技を観るための映画と思わせながら、えげつない長回し(ワンカット)で撮影して、これでもかってくらい、映画を見せつける、映画好きの為に作られたんじゃね?っていう映画、ってファンタジーだよねっ、てか、結局、映画って何やったけ?っていう、もうそれ言い出したら、哲学やんの映画。

めっちゃ映画界を皮肉ってるのに、第87回アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞の4部を受賞しているという、映画界に愛された映画でもある。

主人公リーガン・トムソン役をマイケル・キートンが演じているが、この人が映画『バットマン』(監督:ティム・バートン)で、バットマン役をやっていたから、ってのがちゃんと効いているだけでなく、まじで、この人の演技すごい。老いぼれ感もちょうどいいし、演劇が舞台でもあるので、少しやりすぎ感のある演技がばっちりあってて凄く良かった。
アカデミー賞主演男優賞はノミネートされ、受賞はしなかったが絶賛されたのも納得。前哨戦のゴールディンググローブ賞の主演男優賞は受賞してるし。すごいのよ。

ちなみに第87回アカデミー賞授賞式で司会を務めた俳優のニール・パトリック・ハリスが白のブリーフ姿でステージに登場する一幕があったよ。この映画のパロディでやったんだって、その姿で淡々と司会進めだしたらしいw。

賞といえば、ゴッサム賞で作品賞と男優賞も受賞しています。ゴッサム賞はニューヨークの主に自主映画とかに賞を与える賞です。
ゴッサムといえば、バットマンのゴッサム・シティを連想させますよね。だって、ゴッサムってニューヨークの愛称でして、そこからバットマンの舞台である架空の都市ゴッサム・シティって名前が付けられていますからね。
どんだけバットマン繋がりやねん。って言ってもさすがにゴッサム賞を取るまでは偶然もあるでしょうけど。映画作った後でも繋がりを引き寄せててすごい。

主人公リーガン(マイケル・キートン)が、過去の「バードマン」というヒーロー映画の栄光にすがっていて現在は落ちぶれちゃっている事を元妻シルヴィア(エイミー・ライアン)と会話するシーンで、自分より売れている俳優として、ジョージ・クルーニーの事を話すけど、映画『バットマン』繋がりやん。
マイケル・キートン : 1作目と2作目のバットマン役。
ジョージ・クルーニー : 4作目のバットマン役。

別のシーンでは、テレビにアイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr.)が映るけど、大富豪慈善家ヒーロー繋がりかな?
そして、続編作りまくりの映画(新しいオリジナル原作の映画は流行らんのかい!的な)への皮肉でもあるのかな?
マイケル・キートン : バットマン = ブルース・ウェイン 大富豪(資産を受け継いだおぼっちゃん)
ロバート・ダウニー・Jr. : アイアンマン = トニー・スターク 大富豪(自分の発明でお金持ち)

ヒーローといえば、途中のリーガン(マイケル・キートン)が劇場から締め出されて、ブロードウェイの街中をパンツ一丁で走るシーンで、スパイダーマンのコスプレしている人出ていたし、終盤でもバンブルビーも写っていたし、こういうのハリウッド映画の遊びとしてよくあるよね、っての入れてくるのもヒーロー映画あるあるへの皮肉だよね。

破天荒なブロードウェイ有名俳優マイク・シャイナー役のエドワード・ノートンも主人公リーガンとの対比や娘サムを口説いたり舞台は自分が主役じゃないのに出しゃばったり、破天荒キャラとしてすごく良かった。この後、何しでかすんやろ?ってハラハラとストーリーをかき回す役として素晴らしかった。
主人公リーガンとの殴り合いのグダグダの喧嘩もなんか笑えるほっこりシーンでした。それを見てる舞台の裏方の2人の表情が最高でした。
それに、エドワード・ノートンもヒーロー映画の『インクレディブル・ハルク』のハルク役で、ヒーロー映画繋がりだしね。

リーガンの娘サマンサ(サム)・トムソン役のエマ・ストーンもめちゃくちゃ魅力的なんですよね。父であるリーガンとの距離感の演技が最高すぎます。父に従ってちゃんと付き人として仕事しているかと思ったら、父にはっきり主張したり、父には「愛されたい」ってのがにじみ出てる娘の感じ、この、若さゆえのブレる気持ちの感じの演技が素晴らしい。
そして、エマ・ストーンも『アメイジング・スパイダーマン』でグウェン・ステイシー役をしているヒーロー映画繋がりなんですよね。

さて、冒頭からだと、タイトルを表示する際に奏でられるジャジーなドラムのセットアップしている音と、タイポグラフィーからして、おしゃれでかっこいい。
あくまでも、冒頭がドラムのセットアップっていうのが、絶妙に洒落ているんです。
ジャズドラマーが奏でる全体のBGMも素晴らしいし、映画にバッチリとフィットしている。

観ていると数分で、え?ずっと長回し(ワンカット)ですけど?大丈夫、ってか、ずっとやん!劇場の中だけでなく、外に出るところから、出てから、その途中にジャズドラマーがストリートでやっているのがBGMになっているし、コイン投げて渡しているし、戻ってからもずっとやん。

それに、各所で、主人公リーガン(マイケル・キートン)が超能力あるヒーローみたいなシーンが挟み込まれるけど、その繋がりも長回し(ワンカット)でずっと繋がってるし、極めつけは、ヒーロー映画のようにバンバン銃撃戦やら、バードマン自身も出てきて、リーガンは空まで飛んじゃってって、から、実はタクシーでしたって演出まで、ずっと。ずっと長回し(ワンカット)。
タクシー降りてから、自分の劇場に入るシーンでは、ドアに映り込むの向かいの劇場の看板が「オペラ座の怪人」というブロードウェイで最長公演を記録している演劇だという比較もなんだか、凝ってていいね。

撮影技術がイカれてる。神がかってるよ。まぁ、長回し(ワンカット)”風”なんですけど、それでも"ぼぼ"全編それをやり遂げるのがイカれてるよ。

この長回し(ワンカット)を実現できたのは、撮影監督エマニュエル・ルベツキ(メキシコ出身)の天才(←監督イニャリトゥが言ってる)のなせる業なんだけど、この映画の監督であるアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(メキシコ出身)はCMなどの撮影で何回か会ったりしていて、20年間会うたびに「一緒に長編映画やろうぜ!」って誘っていたらしい。一緒に出来て良かったね、ってだけでなく、アカデミー賞撮影賞まで取るんだから、メキシコ人パワーが凄いよね。かっこいいBGMを作り出したジャズドラマーのアントニオ・サンチェスもメキシコ出身。

ラストの病室のシーンでは、娘サムがライラックの花束を持ってくるのも、初め主人公リーガン(マイケル・キートン)が好きな花って言って買って来てもらおうとしてたけど、売り切れてて違う花が届けられた事からの繋がりも映画的演出でいいよね。

ラストの主人公リーガンが病室の窓から外に飛び出て、娘サムが窓からのぞいて、下を確認したら、あれ?ってなんて、上を見たらニッコリって。
見る側に捉え方を委ねるってのも映画らしい演出で好きですね。余韻大好きです。

主人公リーガンが、本物の銃を使ったので、本当に死んでしまって、病室のシーンはすべて、死ぬ瞬間に主人公リーガンが作り出した妄想かもしれませんし。
病室のシーンは、これまでの長回し(ワンカット)からの繋がりは切れていますからね。

それとも、主人公リーガンは本当に鼻だけの怪我で済んで生きていて、窓から飛んだようなのは娘サムの妄想で、舞台の成功や父リーガンに抱っこされた安心感もあって、明るい未来を妄想して見上げたのかもしれませんし。

まぁ、何にせよ、主人公リーガンが心の悪魔と天使である「バードマン」から決別出来た様子で、余韻を残すようなラストは良かったです。

無知がもたらす予期せぬ奇跡は、演劇評論家タビサ・ディッキンソン(リンゼイ・ダンカン)の評論記事の通り、舞台で本物の銃を使ってしまったそんな事したら、今後どうなるかとか全く考えなかった無知な主人公リーガンが、本物の銃を使ってしまって、それが、結局、舞台の成功に奇跡的に繋がってしまったっていう、演技として演じるより、リアルの方が大衆の気を引いて人気になっちゃうっていう、中身よりゴシップ的な皮肉なのでしょうかね。

それとも、主人公リーガンの起こした奇跡は、元妻と娘サムに愛されているかわからない位に自分が成功してかつての様に周りに認められ、チヤホヤされたい、自己顕示欲の塊状態の「愛」に対して無知な人間が、あがいて、あがいて、結局は、元妻にも娘にも愛されていた事を気づかされるっていう、そして、愛していた事にも気づかされる、という奇跡が起きたってことでしょうかね?

「奇跡」って程ではないかもしれませんが、英語の原題では、「Virtue」という単語で、日本語では、「徳」「美徳」としての意味もあり、精神的な意味合いもあるので、「奇跡」ほど重々しくないかもしれません。さりげなく、家族の愛について語られていると感じます。

さまざまな、解釈ができる虚構と現実の狭間での表現を映画として実現させた監督が言うには、フィクションを綿密に計算された演技と演出と撮影方法によって、リアルを表現したとのこと。この映画の制作工程までもが、虚構と現実の対比で行われてる。
つまりは、ゴリゴリのウソ(虚構)で、ピタピタのリアル(現実)を作ったってこと。

もう、映画の内容も映画の撮影哲学も全部映画やん!の映画。

素晴らしかったです。

私にとっての予期せぬ奇跡は、映画との出会いです。この映画だけでなく様々な映画との出会いは、予期せぬ奇跡と呼びたい。

余談だが、主演のマイケル・キートンは、2022年公開予定の『バットガール』と2023年公開予定の『ザ・フラッシュ』にブルース・ウェイン / バットマンとして復活予定。実際には、この映画で復活し、また、ヒーローを演じる。
これだから、映画って、その周辺も全部ひっくるめて面白い。