チョマサ

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)のチョマサのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

この映画は面白かった。でも、満足できなかったところもあって、構図が似ている場面が多いこととマイクとリーガンが取っ組み合って喧嘩する場面が見えないところ。それらの点がずっと気になっていて、すげーと思うんだけど、物足りなくも思った。いや、見たいところを見せろよって文句なだけである。

でも、それってこの映画の大事なスタイルなのだと思う。この映画のスタイルは3Dでもないのに、映画の中の人物や出来事を強烈に体感させる。劇中「リアリティ番組に出りゃよかった」とリーガンは愚痴るが、この映画はリーガンたちが舞台を準備し初日を成功させようと努力している一部始終を、覗くどころかその場で見ているように感じられるのである。これは加工されたリアリティ番組よりもよりつくられたリアルなんじゃないか。

さらに現実の出来事だけじゃなくリーガンの内面で起こっている出来事も映す。実際には起こっていないけども、リーガンは瞑想して宙に浮いたり、ものを触れずに念力で動かしているように見せる。だが、それはリーガンの妄想だ。リーガンは鬱だったと会話があるように、彼はかなり追い込まれていて、その彼の状態をこうして見せている。おまけにバードマンのスーツを着たもうひとりの人格が自分に話しかけてくる。リーガンが感じていることや見ているものも現実の出来事と交えて見せている。

そして時間だ。数日の出来事を二時間程にこの映画は圧縮しているが、ワンカットの形式で切れ目なく見せることで、その時間の流れも体感させる仕掛けもあるんじゃないだろうか。リーガンの境遇も時間がないから、ここで勝負にでるしかないというものだし、実際の舞台も初日間近で時間が無いというもの。音楽でも左側から秒針を刻む時計の音が聞こえたりと、部屋の状況を感じさせる意味もあるが、他にもなにかある気がする。

ここまで観客に、映画の中を、登場人物の感覚を共有させようとした映画は、若輩ってのもあるが見たことが無かった。そのことははっきりいって素晴らしいと思う。

だから、そのことを意識させるために、FPSのような視点で随時撮られているのだけど、この撮り方だと人物の全体像があまり映らない。部屋や場面の全体も掴みづらい。殆どの場面がバストかアップかクローズで撮られているから、もっとこういうところを見たいのにちゃんと見れないという、もどかしい気分になった。

あと、どれだけ観客と感覚を共有しようとも、まだ登場人物の心理までを読み取ることはできないこともわかった。結局は推し量るしかない、だからラストの意味も自分で考えさせるようなラストにしたんだろう。

それで映画のスタイル以外にも見所はたくさんあって、内幕ものでもあるし、OPはかっこいいし、出てくる人間がみんな芯があるけどどっかイカれてるし、下世話なところもあるし、あそこまで個人的なものを切り示してまで生きていたくなどないなとも思った。マイクのキャラも凄くいいし、ぷらすとでも話が合ったメソッド俳優はこれだったのか、と納得した。最初の舞台でマイクがあげる俳優たちとそれからの一連の行動でどんな人間か分かるモンな。
なおさらあの喧嘩の場面をもっとちゃんと見たいのだ。

そして映画界の現状や、舞台評論家のブチギレは、下世話だけど、迫るものがあって、ホントにいろんなものが見られる映画だ。

あとアカデミー賞には年ごとのテーマがあって、町山智浩氏やWOWOWぷらすとで松崎健夫氏が指摘してたように、作品の出来で必ずしも選ばれる賞ではないことは知っておいた方がいいと思う。
それを考慮してもこういった形の映画が賞を取ったのは珍しいことなのかな、とも思うのだ。
チョマサ

チョマサ