「いくら長生きしたって、君ほど素晴らしいものは生み出せないよ」
「受け取る」側から「与える」側へ。
老いの賛歌。名優ロバート・デ・ニーロから学ぶ「大人」講座。こんな大人になりたい。こんなおじさまになりたい。無性にときめいて今にも憧れで体が爆発しそうです。劇場でリアルタイムでデ・ニーロを見たのはお恥ずかしながら今回が初めてでした。だけど恥じたくはないです。初めてには勿体無いくらい素晴らしい作品に恵まれたので!
孔子が言うには七十歳になると「従心」と言って心をコントロール出来る穏やかな理想的な人格になるそうです。
無駄に長く、過酷で、退屈な思春期をようやく抜け出したぼくは心の平穏とは無縁です。落ち着きのある大人の人は口でこそ言いませんが憧れています。だからお手本となる人をよく観察します。イーストウッドやニコルソン…もちろんデ・ニーロも敬愛してます。
デ・ニーロ演ずるベンは妻に先立たれて悠々自適に隠居生活を送っていました。
「行動あるのみ」
彼の人生の指針は至ってシンプル。肉体は七十歳のモノ。だけど。胸に宿した魂は青年のモノと変わらないくらい好奇心旺盛、勇気凛々、元気発剌…さながらエナジーに人の形を与えたような人がベンです。めちゃくちゃアクティブ。さらに笑顔がでらチャーミングだし若々しいですね。
社会から離れて暮らすよりも社会と繋がっている生活を望んでシニアのインターンに応募します。インターン先は女性向けのファッションを扱うアパレル会社。新興会社でめきめきと成長中で社員もエネルギッシュな若い人ばかり。いざ面接に行くと親子、孫ほど歳の離れたベンを前にすると社員も「冗談でしょ?」と少し小馬鹿にした感じ。まぁおじいちゃんみたいな人がインターンに来たら見くびるのも致し方無いです。
ベンは起業して1年半で社員16人から216人まで企業規模を拡大させたバリバリのキャリアウーマン、ジュールズの部下に。
生粋のアナログ人間のベンはハイテクに疎くて、他の社員がスマホやUSBなんかを机に広げて仕事を始めるとベンは電卓、万年筆、時計などを几帳面に並べてパソコンの電源入れるのにも一苦労でした。周囲の人も大丈夫かなこの人って感じ。そんなわけで最初は仕事を任せてもらえません。
が、ベンはめげない。
「瞬きしないと不気味よ」
とのアドバイス通りに鏡の前で目をパチパチさせながら挨拶の練習。うーむ「俺に話してるのか?」なんて言ってほしかった笑
間違いなくベンは「従心」の境地にいると思います。はるか年下の若者を自分より上のように扱い、慇懃に言いつけを守り、細やかな配慮を施す…ベンは優れた人格者です。
ベンの優しく誠実な人柄はすぐに若い人たちにも伝わります。同期の若いインターン生のアパートの世話をしてやったり、色ぼけ社員の痴話喧嘩をとりもってやったり(ごめぇぇぇんは無い笑)、歳の差の分け隔てなく打ち解けます。さらに会社専属のマッサージ師にアプローチしたり…と行動力あります。
笑ったのはジュールズのママ宅への侵入ミッションでした。マット・デイモンとブラット・ピットとベンアフレック(弟)の豪華(?)メンバーで愉快に強盗します。お茶目さん!
最初はベンを敬遠していたジュールズも彼の人柄から一目置きます。運転手の代理を任せて毎朝送り迎えをしてもらいます。仕事場で熱心に社員に指導を施すジュールズを遠くで優しく見守るビルが素敵。観ているこちらも彼の温かみに包まれる心地です。
「ハンカチは貸すためにある。女性が涙を流した時にね。紳士のたしなみだ」
はい、持ち歩きます…
送迎の際にくたくたのジュールズが爆睡でいびきをかきます(うひゃーアン・ハサウェイのいびき…!)
「い、いびきかいてなかった?」
「気づきませんでしたよ」
大人の対応だァ〜!他にも
「何を話してたの?」
「さぁ?耳が遠いので」
とぼけた表情がね、また憎いぜ。
さらに、
「1分だけ胸を貸して…最悪の1日の締めくくりに…」
泥酔したジュールズに突っ立ったままなされるがままのベン。肩に手を回さないあたりが彼の実直な性格を物語っています。紳士ですね。ぼくなら回すね(チキン野郎)
ジュールズはやり手の強い女性に見えますが内実はそうでもない。
会社が急激に大きくなり過ぎたために資本家はCEOを外から迎えるように命令します。ジュールズはワンマンで人の下に立つタイプではない。かと言って毎日会社と夫と娘の待つ家庭を往復してへとへと。会社を取れば、主夫をやってる旦那の負担が増えるしすれ違うし、娘に寂しい思いをさせるし、家庭を取れば社員がてんてこ舞いになり、経営が芳しくならないし、女性差別をするCEOなんて大嫌いだし本音を言えば仕事が楽しいわけで…彼女はジレンマに直面しています。
日々に迷い心身ともにボロボロのジュールズの側に畏まって控えるベン。次第にベンの優しさに安らぎを覚えるようになります。
「今時の男はガキっぽいのよ。少しはベンを見習いなさい」
「大人と大人の会話をしたのは久しぶり」
ジュールズがベンに求めているものは「大人」らしさです。ジュールズは仕事に生き甲斐を、家庭に愛情を、強烈に求めています。考えてみると彼女と仕事、彼女と家庭は一方通行。ジュールズは「受け取る」立場にしかいません。一方的に求めるばかりだから、疲れ、戸惑い、苦悩し、打ちひしがれます。
反対にベンは「与える」立場にいます。若い社員に慕われるのはみんな彼から何かしらを得たいからです。ベンは彼らが求めるものに誠実に応えます。自分からは求める真似はしません。心が安定しているからです。ぼくにはベンが聖人に見えました。
仕事か家庭か。
ジュールズの人生最大の選択にベンは毅然としてアドバイスします。
「いくら長生きしても君ほど素晴らしいものは生み出せないよ」
ベンは魔法使いかもしれません。あれだけジュールズを苦しめていた苦悩が綿毛のように消え去ります。自分はまだ「大人」にはなれないなと思った瞬間でした。最高です。
「受け取る」立場から「与える」立場へ立てるようになりたいです(゚∀゚)