ナガノヤスユ記

アラビアの女王 愛と宿命の日々のナガノヤスユ記のレビュー・感想・評価

4.2
ガートルード・ベル本人は、良くも悪くも現在の中東情勢の形成に一役を果たしたようだけど、映画ではそこらへんの政治の話はバッサリ。間違っても『アラビアのロレンス』を期待してはいけない。邦題は完全なミスリード。その他諸々の壮大な煽り文句も鑑賞後には悪い冗談だとわかる。

本作での彼女は、政治家はおろか考古学者でさえなく(対としてのロレンス)、ただの旅行者を自認。彼女が語るのは始終砂漠への「異邦愛」に尽きる。風土とそこに暮らす人々、話す言葉、歴史と詩への愛。もちろんその愛は、彼女が手に入れることが叶わなかった異性愛の片割れ(割れたコイン)、代償なのだが。彼女にとって砂漠は、愛の育つ地であり、弔いの場所でもある。孤独を愛し、孤独に愛された女。
となれば是、128分という長さ、出演陣、邦題の仰々しさに欺かれることなかれ、ヘルツォークのいつも通りの紀行映画か、くらいの気分で見るのが正しい態度であったと思う。延々と広がる砂漠やラクダの唸り、光と風を尊ぶだけの2時間を捻出できる人だけが見ればよろし。願わくば、多くの人がそうであれば尚いい。