芥川

野火の芥川のレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
4.1
主人公の孤独な放浪と、狂気と、戦争の(あるいは究極状態における人間の)残酷なる本質が全てを占める恐ろしい映画だった

ここでいう恐ろしさは非常に重要で、つまり戦争とは、表を見れば国を守ることやそれに類する正当性、英雄性のようなものが描かれがちだが、本質的には圧倒的な"地獄"をこの世に現出させるものだ、というイメージを人々に理解してもらうためには、耐え難き恐怖をもってそれを証明するしかないのだ、という監督の意思が現れていた。

塚本晋也が、ヴェネチア国際映画祭で、グロテスクな描写が強すぎるとの批評を浴びた時、「あれでも少ないくらいだ」と語った記事があったが、その通りで、現実はもっと恐ろしいものだったとしてもおかしくない。

人肉食や死屍累々な数々のシーン、特にラスト付近の永松が安田を…のシーンは、とにかく強烈なインパクトだった。もうホラー映画とかそんなので描かれる狂気ではなくて、それを超えた、生物の究極の欲望(食欲)を、ただ満たすためだけに禁忌を犯して生きるしかない状況、人々をそんな風にさせ、そんな状況を作り出してしまうのが、"戦争"であると感じた。

こんなにも、誇張無しであるがままの戦争を描いた作品はないと思う。
芥川

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