チョマサ

ディーン、君がいた瞬間のチョマサのネタバレレビュー・内容・結末

ディーン、君がいた瞬間(2015年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ホームシックなジェームズ・ディーンを描いた映画。
ジェームズ・ディーンの出演作はまだ見ていない。だから、今まで見た写真の彼でしか比べられないのだけど――
デイン・デハーンは容姿が若く見えるから、彫が深くて老けぎみに見えるジェームズ・ディーンに似ていない。目もとの疲れは再現してたが、他は彼よりも若いように見えた。ただ喋りかたや演技はそっくりに真似てると思うが、容姿とつりあわなくなって若々しさがよけい気になった。
ただ、故郷インディアナ州にある育ての親、おじおば夫婦の農場に戻ってからの場面はすごくよかった。ジミーが安心してリラックスしてるのとデインの笑顔や演技がとてもよかった。ほんとうに落ち着いている。コンガを叩いたり、演技の講義を聞いたり、抱いていた印象とはことなるディーン像で新鮮だった。

この映画はスターになる直前のジェームズ・ディーンを描いた映画だ。この映画の彼は映画スターの仕事に戸惑い、疲れている。演じることにしか興味がないのに、やりたくない宣伝の仕事を強要される。付き合っていた女も寝取られた。いやになる仕事をよくサボるようになっている。パンフレットの年表を見るとスターだった期間の短さ、そしてこの時間で現在にも名を残す影響力にすごみを感じる。

ロバート・パティンソン演じるデニス・ストックは写真家になりたかった。16で働き始め、17で子供をつくった。個展を催せるような写真家になりたいが、チャンスは来ないし離婚した嫁とこどもとの付きあいも、うまくいかない。
そんななか『エデンの東』の試写を見て、ジミーを撮ることに将来のチャンスを見出す。たぶん彼に惹かれてというよりは、将来性のあるスターを撮れたら写真家になれるくらいしか思ってないだろう。じゃないと、あんなに試行錯誤したりジミーに振りまわれて疲れるなんてことはないはず。トワイライトの青白い奴くらいにしか思ってなかったけど、印象が変わった。

デニス・ストックとジェームズ・ディーンのふたりとも、いまいる環境に疲れきっている。そんなふたりが出会った数日間を再現しているだけなんだろうけど、それなのにふたりの過去とかいろいろな一面が見える。
故郷に帰ったジミーのホームシックを描くほかに、10代の青春時代がなかったデニスがバレンタインのダンスパーティーで高校生活をすこし体験したり、写真にしか興味がなかったからダンスもできないデニスの人間としての退屈さが、NYでジミーの仲間と飲んでいるときにでてくる。再現のはずなのに、ふたりの情況と人間性がよくわかってたいへんおもしろかった。
この映画はデニスがLIFE誌に載せた写真の詳細なレポートになる。観終わって思うのは、あの写真は的確にあの時点のディーンをとらえていたことだった。

音楽もベースの音が印象的で、思うようにいかない人物ばかりでてくる全員の気分にあっていた。

キャロルも50年代を描いていたけど、こっちのほうが好きだ。キャロルは裸も出るし、Fワードも口にされるけど、主筋は刺激的でない当時の感覚のままだったと思う。こっちは気だるさがどの年代の若者にも通じると思う。

ハリウッドのスターがどうやって作られるかを描いてるのもおもしろい。
ライトニン・ホプキンスが冒頭で流れるのだけど、この人は山崎まさよしが影響をうけた人だよな。
驚いたことが一つあって、最後にデニスがこのときに撮った写真が数点でてくる。そのなかにザ・スミスのブートレグ盤THANK YOUR LUCKY STARSのジャケットに使われた写真が登場した。あれがジェームズ・ディーンとはまったく知らなかった。

パンフレットはよくできてる。森直人さんのキーワード解説に門間雄介さん、川本三郎さん、立木義浩さん、渡辺祥子さんのコラムに主演二人と監督のインタビューも載って充実している。おすすめ。
大森さわこさんによる、アントン・コービン監督の東京国際映画祭でのレポートに、「――大きなメッセージを描いた作品ではなく、人物たちが生み出す微妙なニュアンスを楽しんでほしい――」(一部引用)とあって、そのとおりの映画だった。ふたりがいい。
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