まるみ

ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブのまるみのレビュー・感想・評価

4.9
全く予想していなかった大傑作。正月の暇つぶしにネトフリで1、2続けて観たのだけど、今作を観始めて正月ボケから吹っ飛ぶほど衝撃を受けた。
正直1には凄い事をしてるなあという感動はあれどそこまでは入り込めなかったのだけど、今作は見違えるほどに面白かった。

バラエティの人気コーナーのテイストを取り入れた劇映画、ではなく基本的にキス我慢選手権のコンセプトを映画にそのまま移植した形になっている。
なのでバナナマン、おぎやはぎのツッコミも入るし、セクシー女優のヒロインらのキスの誘惑コーナーもある。

しかし、この今作でキス我慢を映画にする上で拡張したものは基本的にただひとつ。
劇団ひとりのアドリブ芝居とそこに広がる世界観である。

「能力者たちに巻き込まれていく普通の高校生」という設定も、
キャラ的にあまりオロオロできない前作の「砂漠の死神」よりも、次々巻き起こる出来事にアドリブ芝居で食らいついていくひとり自身の状況とのシンクロ率を高めることで、
七転八倒するリアクションを自然に作品に取り込む事に成功している。

ひとり特有のクドイ芝居が転がっていくうちに、超能力学園青春もの+おバカお色気+モテモテだけど実は童貞・・・etcとまるでアメリカC級映画のような世界がどんどん広がっていく。

ひとりがキス我慢で見せるアドリブ芝居は基本的に「カッコつけ」で「ヒーロー(主人公)あるある」であり、
そこからおぼろげに立ち上る姿は前述のような80sアメリカンムービーのそれであり、昭和の日本漫画やドラマの古き良きそれであり、

めちゃめちゃダサいとこがあったり、ひたすら振り回されボロボロに傷いたりしながらも、
無闇矢鱈に暑苦しく、最後まで必ずカッコつけ続ける、そんなオールド・ファッションド・ヒーローだ。

ではなぜそれだけの「あるある」があんなに面白く、時に胸をキュッと締め付けるのか?

それはそんな時代遅れのヒーローたちはもうどこにもいないからだ。

終盤そのセンチメントが極まる場面でひとりが呟く「俺の夢ってさ、結構叶うって評判なんだよね」という普通ならどうしようもなく陳腐に響くしかない台詞に、笑って笑って、泣いた。

ここに冷凍保存されたヒーローがいつか目覚める世の中、来るだろうか。




以下ネタバレ


今作には不思議なマジックがあちこちに散りばめられており、
劇団ひとり自身と「カワシマショウゴ」がシンクロしていくように、
上原亜衣と「アイ」もまた不思議な重なりをみせ始める。
もう自分だけの力では元には戻れない場所まで来てしまった「普通」から逸脱してしまった「ヒロイン」。

そんなアイにショウゴが陳腐な「普通の幸福」の夢物語を話しながらプロポーズする前述の場面はどうしようもなく胸を打つ(ひとりの見事な伏線自己回収も含めて)。
あんなの決めたらテンション上がってキスフライングしても仕方ねえよ。

そして今作が本当に凄いのはその破綻からのひとりと物語のさらなる暴走である。
この世界は仮想空間だったというさらに虚実を混乱させる要素がブチ込まれ、

破綻と予定調和とお約束と意志とが綯交ぜになって、おそらく予定よりもとてもシンプルでしかし力強いラストに辿り着く。

計算して計算して準備して準備した結果、偶然生まれたマジカルを120%活かし切った傑作。こんな脚本書けるなら天才だよ。


あと劇団ひとりが本当に凄いのは、ループ後実験室で再会したジュンペイとトキオにループ前の話を少しした後「わかんないか、まぁいいや」と言う時のような微細なトーンと所作の恐るべき再現度だと思う。
憑依芸なんて生易しいもんじゃない。そしてその狂気の返す刀で冷静にTENGAにツッこむバランス感覚。劇団ひとりの真のヤバさはまだまだお茶の間に浸透してはいない。
まるみ

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