まるみ

ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK‐The Touring Yearsのまるみのレビュー・感想・評価

4.5
ビートルズのライブ活動期である1966年までを軸に、
ビートルズそのものというより、
あくまで「ビートルズと彼らを取り巻いた熱狂」を主に描いた作品になっている。

彼らがいかに全世界的な狂乱の渦中に置かれていたかが、よく分かるエピソードと映像が集められている。


ライブ映像ではビートルズの荒々しい演奏(イメージよりもずっと激しいはず
だ。特にスタジオ録音では軽やかにスィングしている印象のリンゴなどは、ここではまるでガレージパンカーのようなドラミングを見せる)はもちろん、

我を忘れて熱狂するオーディエンスの姿がふんだんに映されており、
苦虫を噛み潰したような顔をしたオジサンのすぐ横で、
髪を振り乱して泣き叫ぶティーン女子たちを見れば、

いかに初期のビートルズが、
それまでのR&B、R&Rの系譜(米国産R&B、モータウンなどをこよなく愛していた彼らが、人種差別に反対したのは至極自然なことである)からひとつ突き抜けた
「ユースカルチャー」「若者たちのもの」であったかがよく分かるだろう。

もちろん、エルヴィスだって、モータウンだって、ジミーギルマー(「抱きしめたい」「シー・ラヴズ・ユー」が全米チャートで年間1・2フィニッシュを決めた前年の年間No.1。曲は「シュガー・シャック」)でさえ、

若者たちの音楽ではあったのだろうが、
楽曲製作と演者の分業がまだまだ主流であった時代に、

まるでただの仲のよいツレ同士のような若者たちが(しかもちょっとヤンチャそうな)、
自分たちで作ったR&Rを自分たちだけで演奏する(ように見せる)というのは、

のちのパンクやグランジと同じように、
若者たちが、音楽を、カルチャーを大人から自分たちの手に取り戻したんだ、と
そんな歓びに打ち震えるようなショックだったのであろう。

それもおそらく20世紀に入って音楽が産業化してはじめての。


そんな脅威的なレコードセールスを叩き出した彼らだったが(前述の年間ワンツーをキメた64年の4月4日付の週刊チャートでは驚くことに1~5位までが全て彼らの曲である。
「抱きしめたい」がトップをとった2月から、チャート上を次々と彼らの曲が上がってくる様は凄いものがある。他にどんな曲が入っていたのかも含めて、とても面白いので1度ググってみてほしい。
「抱きしめたい」トップの前週、その前後を挟んでいるのが、上にキングスメンの「ルイルイ」下にトラッシュメンの「サーフィン・バード」だ、
なんて味わい深いw)

彼らが「レコードでは稼げない。もうかるのはライブ」と言うのは契約の問題が大きいにせよ、
音産というのはまだまだ興業中心だったのである。

だからこそ、ライブでティーンのアイドルを演じてさえいれば、
契約枚数をこなしてさえいれば、
音盤製作は実験的なこともある程度好きにやれたとも言えるし、

だからこそ彼らが「サーカス」と自虐的にうそぶく果てない巡業に苦しめられていった、とも言えるだろう。


後半、とどまることなく規模を拡大させて転がっていくツアーでの演奏は、
見ていて息苦しくなってくるほどで、

今作のリマスター版映像がウリのひとつであるシェイスタジアムでの演奏では、

「ディジー・ミス・リジー」のイントロ、
決して掴めない何かを、必死で探す子供のような、
頼りなげな表情を浮かべながらギターをかき鳴らすジョンの姿は、

鬼気迫るものこそあれ、辛くなるものがある。


やたらと4人の「絆」「一体感」を押してくる演出には少し思うこともないではないが、
「僕たちは4人いた。ひとりじゃなかった。エルヴィスの気持ちは誰にも分からない。」

というのは本当の気持ちだと思うし、
そこには確かに他の誰にも分かち合えない、ブライアンにもG・マーティンにも理解しえない絆のようなものは確かにあったのだろう。

しかし、ついに巨大なハムスターホイールを止め、檻の外へ出た彼らは、

皮肉にもその自由ゆえにあっという間にその絆をもつれさせてしまうのである。


ここで描かれているビートルズはひとつの確かな一面ではあるが、

それだけでは分からないことが沢山ある。

もっといろんなビートルズが見たくなる。そんなきっかけになってほしいと思う。


※多くの人が言うように、ゲイターボウルでのライブの場面(前述の人種差別の件の。映像はなし。音源があるなら一刻も早く出すべき。音質は問わない)は白眉である。

上映館によって違うのかもしれないが、本編後のシェイスタでのライブ映像の音量が、本編よりかなり控えめってのは一体どういうこと!?
思わずリモコンを探しそうになったよ。

画質、音質ともにとても良かっただけに残念。演奏はご愛嬌。あんなもんじゃないのであらゆる手段で色々聴いてみて下さい。
あんな環境なのに演奏できてる!(確かに凄いのだけど)

なんてそれこそ目隠しの綱渡りじゃないか。
まるみ

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