まるみ

THE BATMAN-ザ・バットマンーのまるみのレビュー・感想・評価

4.0
とにかく暗い。めっちゃくちゃに暗い。話の内容もそうだけど、まずそもそも画面がほぼずっと暗い。あの画面を3時間観続けるのはおじいちゃんなんかにはちょっとキツイかもしれない。お爺ちゃんはバットマンなんか観に来ないよ、とは全く言い切れない世の中になった。言うまでもなく。

もう色んな所で指摘されてる事だが、今作のパティンソン・ブルース/バットマンは目の周りがちゃんと黒い。黒いだけではなくしっかり汗で滲んでいるのだ。
たいして思い入れのない私でも、やはりここにリアリティラインを引く姿勢には痺れてしまう。
今作のバットマンでは『おかしな格好でウロウロしてる異常者スレスレの“自称“ヴィジランテ』という目線を市民から向けられる瞬間が明確に描かれている。
まだ2年目、駆け出しのバットマン。まださしたる功績も信頼もないので無理もないのだろう。

ただ犯罪者達にはしっかり恐怖を与えているようで、闇夜にバットシグナルのライトが照らされる時、犯罪者達は手を止め怯え逃げ惑う。
たった一人でゴッサム中の全ての犯罪者を相手にする事は不可能。ならば恐怖を与えるしかない。『アイツ』が現れたら終わり。暗闇から響く重いブーツの金属音。まさにバットマン。まるでホラー映画のモンスターのような描写だが、これがめちゃくちゃ格好いい。
そして哀しい。
その傷と復讐の黒い焔を内に隠すカウルを脱いだブルースの、汗でジットリと張り付いた髪に黒く滲んだ瞼、憔悴した瞳。この痛々しさは今までのムービー・バットマンには無かったものだ。








以下ネタバレ









ノーラン版のようなハイテクギアもない訳ではないのだが、ベイル・ブルース/バットマンのように華麗にスマートにアクロバットにギアを駆使して立ち回るような事はない。
コウモリというよりムササビのようにビルの間を抜け(あれは『飛んで』はいないだろう。殆ど『落ちてる』のと大差ない)、パラシュートも破れ路上を転げ落ちるバットマンは、
コメディと悲劇のちょうど狭間にいる。

唯一おっと驚かされるアイテムが、盗撮できるコンタクトレンズ。えっ、いちいちやる事が陰気すぎません?
セリーナとアニカの部屋を覗いてるブルースなんて、冒頭の市長を覗くリドラー(ですよね?)とほぼ同じじゃん、という。
全編を通してリドラーから送られる『お前と俺はひとつだ』というメッセージ。
『お前は俺よりもずっとずっと恵まれていたのに』という。
警察には訝しがられ、助けた相手にまで怖がられ、殺人犯からはラブコールを送られる始末。もう散々じゃん。
まあ、セリーナという理解者であり同士であり得たかもしれない女性との交流もある訳ですが、感動的なのはそこからのライジングでしょう。

自らだけでなくアルフレッドも傷つけられ、誇りにしていた父さえも信じていいのか分からなくなり、あげくお前のお陰で計画は成功したと言われ、何も報われない。

それでも立ち上がって、戦って、どんなに善を成しているつもりでも『復讐』では過去と決別はできないという所まで辿り着くラスト。
皆が躊躇する中、その怪しげなマスクの男が差し伸べる手を最初に掴んだのは、同じ孤児となった少年だった。彼は自分を見つめるブルース/バットマンの眼差しに、身に覚えのある哀しみを感じていたのかもしれない。

本当に三部作になるのなら、パティンソン・ブルースがどう変わっていくのか、それとも変わらないのか、とても楽しみです。今度のバットマンが行く道は辛く険しくなりそうだな〜。


余談ですが、公開前に話題になった『洪水が起きますよ』はネタバレか?当然の配慮か?問題。もちろん該当の場面に心理的ショックを受ける人がいる可能性は充分に考えられる。今回はさらに日本では公開日という偶然も重なってしまった。
あのシーンにトラウマを喚起させられるような人はわざわざ3.11にバットマンを観に行かないだろう、とは全く言い切れない。世の中とか関係なく、そういうものは一見平穏な生活の中でも突然何かをトリガーに引き起こされうるものだからだ。

ただ有志、ではなく公式に注意喚起を求めそれが実現した事の是非は今の自分には判断しかねる。なぜなら観る前にはそれぐらいネタバレにはならんだろう、と思っていた程の自分が実際その場面を前に少しだけ、ほんの少しだけガッカリしてしまったからだ。

最後の洪水が起きる前、リドラーは逮捕され事は一旦収束に向かう気配を見せる訳だが、
どうしたって私たちには『そういやまだ洪水来てないな』が呼び覚まされるのだ。

まあ、例えそれを知らずとも、あそこで終わらないだろうと映画好きなら誰しも考えるはずだが、もし『必ず起きるはずでまだ起きていないと明確に分かる何か(それが洪水であるか何であるかは重要ではない)』の存在を認識していなければ、もう少し純粋にその後の展開を楽しめたかもしれないなとも思う。

この『ああこっから洪水ね』という醒めと、注意喚起によって防がれる傷を天秤にかけた時の、そもそも天秤にかけられる物なのかどうかを考えるには字数も思索も圧倒的に足りないので、ここらで終わりにする。ただ世の中的には後者重視へ進んでいく流れは変わらないだろう。それでいいと思う。やり方はもう少し考えるべきかもしれないが。
まるみ

まるみ