J四郎

ベン・ハーのJ四郎のレビュー・感想・評価

ベン・ハー(2016年製作の映画)
3.6
「ベン・ハー」といえば59年版の超大作が有名だが、これが数えて五作目の映画化作品となるらしい。
日本ではまさかのビデオスルーになってしまった。
実際に鑑賞するとその理由も分かった気もしたが。

特典映像からの受け売りだけど、今作は原作をかなり忠実になぞったらしい。知らんかったが、この原作者ルー・ウォーレスって南北戦争のときは将軍だったり、政治家を経験したりと波乱万丈の人生を歩んでいる。この人の人生も映画化したら面白そう。

59年版と比べるとスケール感では圧倒的に負ける。でも、映像のリアル感では負けていない。ローマ軍の行進なんぞこっちの方がリアルかも。そして四時間もあるアレに比べたら約二時間と時間的にも負担が少ない。
現代的にアレンジされていてテンポも良いしテーマも分かりやすく伝わってくる。前のを知ってるなら展開はやっ!と驚くはず。

59年版と最大の違いはイエス・キリストの存在だろう。
原作はキリストの物語と副題があるように、この存在が大きい。確か59年のほうでは一瞬、それも姿もハッキリとは映っていなかった。
なぜそうなったかは「ヘイルシーザー」内でも語っていたと思う。
でも、今作ではモロに出てくるうえに物語に与える影響も大きい。それどころかテーマを語る上での象徴。

もしかしたらビデオスルーになった原因はここらへんかもしれない。よーく観たらコレはキリスト教だけでなく普遍的な事を語ってるんだけど、宗教色が強いため日本人にはイマイチ理解できんのでは?と判断したのかも。

ストーリー展開も微妙に違う。
前のは事故みたいなもんで主人公は罪に問われたが、今回はローマに盾つくゼロテ派の兄ちゃんを匿ったがためとんでもない事に。
ジュダの高い理想が悲劇を招くわけだが、この方が説得力があるしドラマチックだな。
ただその後のガレー船の地獄絵図はちょい物足りなかった。

後半には日本でもお馴染みモーガン・フリーマン登場!
この人物は人生の師といった役回りで、戦車競争では丹下段平よろしくセコンドについてアドバイスを送ります。
やっぱりこの人にはこんな役が似合う。

ベン・ハーといえば、やっぱり戦車競争。
この映画はピンポイントでココに絞ってきたんでは?と思うほど熱がこもっておりました。オリンピックみたいに国際色豊かな出場選手に混じり、ジュダとメッサラの宿命の対決。
これが中々に熱くて、個人的には59年版よか見応えがあった。
見せ方も上手いので面白かった。動物愛護団体にどやされんよう、馬の扱いにも気を使ったらしい(大変やな)倒れる馬なんぞはCGで再現。

そしてこの後の展開も今回は一味違う。勝利と引き換えにした代償みたいなシーンがあって、キリストの処刑まで描かれる。そこは主人公の為した事とイエスの生き様との対比になっている。
そして原作のテーマでもある「許しの物語」へと続く。実に普遍的で今の国際情勢も勘案したであろうラスト。

59年版は確かに偉大な作品であり、映画そのものの質としてはやはり勝てない。イメージするならあっちは強大なローマ軍そのものですわ。そこにゲリラ戦で一点突破を図るようなこの作品、その姿勢は嫌いじゃないですねぇ。前作と比較しないなら悪くない・・でも、比較してこそ面白いっちゅうのもあるし、難しいとこですなぁ。
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