もっちゃん

オデッセイのもっちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

オデッセイ(2015年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

原作は未読。原作ファンから言わせるとワトニーのひょうきんさがいまいちらしいが、個人的にはかなり楽しめた。

本作をSFに分類すべきかどうかはかなりきわどいところだろう。何か非科学的なところがあるようには一見すると見受けられない。というのも、全編通して飛び交う専門用語のオンパレードや科学的理論だてに基づいた説明的描写があまりにもリアルだからである(確かにわかりづらい部分も多いが、結構説明的なセリフもあり配慮はされている。漫画『宇宙兄弟』なんかを見ておくと大まかなシステムはつかめる)。

そういう意味では近年の傾向として「リアルSFもの」の流れを踏襲した作品であるといえるし、SFに造詣が深いリドスコの真骨頂ともいえる。宇宙船の造形やローバーやモニターなどなかなかメカメカしい描写はさすがにリドスコだと感心する。

近年の「リアルSF」を踏襲しているとは言ったが、今作が明らかに近年の流れを打ち破るものを作り上げていることも確かである。それは「科学復古」や「古き良き米国のフロンティア精神」という点においてである。まだ科学への期待が絶大だったころの楽観主義(今作では、一人のピンチのために中国が全くの善意によって協力を申し出た)や宇宙という「未知」に挑戦することを引き受け邁進する一昔前のハリウッドSFの鼻息の荒さを今作には感じるのである。

今作を見ていて感じる「底抜けの明るさ」はポップな音楽の力だけでは説明できない。火星にたった一人という絶望的な状況でそんなことを全く意に介さず(ちょっとは失望するところもあったが立ち直るのは一瞬だった)、DIYを始めてしまうワトニーの姿は昨今のSF映画の流れに一つのアンチテーゼを提起しているように思えるのだ。

だが、近年の傾向としての「地球回帰系SF」(『インターステラー』や『ゼログラヴィティ』など)の流れはきれいに受け継いでいるとも言える。宇宙の中の星々という象徴的なシーンから始まり、全く同じシーンで終了するというのは明らかに意図的であるだろう。さらに、火星探索クルーたちの「Uターン」や最大の見せ場である船長とワトニーのランデブーシーンにおける「命綱の円環構造」、もっと言えば地球帰還後のアレス5の打ち上げなども「円環」をメタフォリカルに表現している。そこには宇宙への憧憬が垣間見える。古典SF出身のリドスコならではの視座であるといえるのではないか。

何はともあれ、かなりライトなSFものに仕上がっていて個人的はかなり好感を持った。DIY映画としての側面もあるのでぜひDIY映画の傑作『アイアンマン』が好きな人には見てほしい。今作でもアイアンマンが出てくるので。というかなんとなく今作、「マーベルシリーズ」の香りがしたのは私だけだろうか。