もっちゃん

パレードへようこそのもっちゃんのレビュー・感想・評価

パレードへようこそ(2014年製作の映画)
4.0
時は1980年代のイギリス。サッチャーによる急進的な財政緊縮政策によって全国に失業者があふれていた時代である。そういった影響を最も受けたのは下層労働者階級であった炭鉱夫たちであった。
労働運動が各地で発生し、長期的なストライキが続いたこの時代において同じマイノリティとして社会から分断されていたLGBTの人々が声を上げたのは必然と言えば必然と言える。強大なマジョリティに対抗するためにマイノリティは連帯していく。「組合が人を強くする」

しかし、マイノリティたちが簡単に連帯するのかと言われれば難しいところで、今作はそんな「マイノリティ間の連帯の難しさ」を描いている。そしてLGSMという実在の団体の凄いところはウェールズの炭鉱町と連携したということだろう。
イギリス史には詳しくないが、ウェールズという町は産業革命時代に工業で急速に発展した地域である。コテコテの工業、炭鉱地域と言える。さらに公用語は英語とウェールズ語。後者の言語は前者とは全く別物と考えていい。ロンドンとウェールズの関係は日本の東京と地方という関係よりも疎遠であるといえるだろう。

そんな地域と連帯して、実際に一大ムーブメントを起こすことができたのは当時の時代背景など様々なファクターが考えられるが、LGSMのメンバーたちの力量によるところが大きいはずだ。
見たところメンバーのほとんどは若者である。「ゲイである」とか「レズである」とか言って彼らを蔑んでいた連中は実際に彼らほどの行動力が果たしてあったかどうか。

しかし、やはり彼らが連帯していく過程では様々な障害が生じる。だが、彼らを決定的に結びつけることになった契機は実際に町民とLGSMの連中が「対話」をすることである。
町民の老人などから寄せられる素朴で率直な意見(「レズビアンは皆ベジタリアンなの?」とか)に対して彼らも冷静に説明する。時間がかかることかもしれないが、根気強く対話し続け、お互いを理解することが実は一番近道なのだ。「怖い」「気持ちが悪い」と感じるのは詰まるところ知らないからである。知ってしまえば何も怖いものはないのだ。

「無駄に生きるな」「人生は短い」終盤に物語は根源的なところに終着していく。ムーブメントは炭鉱夫やLGBTの人々だけにとどまらず、様々な人に波及していく。
大きな運動は関わった人の人生に少なからず影響して、変えていく。