乙郎さん

ピースオブケイクの乙郎さんのレビュー・感想・評価

ピースオブケイク(2015年製作の映画)
4.5
 一言でいえば、自分にとってのピースオブケイクが集まって出来たホールオブケイク。思い入れのある要素が強いが、映画としての煌めきが保持されていた。


 まず、多部ちゃん。『君の届け』の多部未華子は奥手女子というイメージに沿ったキャスティングだった。もちろんそれも素晴らしいのだけれども、今回の役は観方によっては「ビッチ」とも称されかねない役。しかしながら、多部ちゃんの善顔及び表情により、確かにこの流されやすい恋愛体質の女性をうまく演じ切っていた。つくづく思う。マネージャーかどうか知らないけど20代前半の時期に3年間も多部ちゃんに映画の仕事を与えなかった人はアホだと。


 田口トモロヲ監督、そして彼の作品にはすべて出演している峯田和伸にも思い入れがある。銀杏BOYZをBGMにしていた大学の頃、確かにこのタッグによる『アイデン&ティティ』を観て感動した。それから少し時間が経って、今度は峯田がわき役に回った『色即じぇねれいしょん』を観たけれど今度はあまりはまらなかった。そして、峯田自身の音楽活動への熱気も確かに以前ほど熱くはない。そんな自分にとっての苦い過去を思い出させる存在の彼ははっきり言って浮いている。峯田が出てくるだけで別の映画になっていると思うくらいバランスを崩している。いや、しかし。『色即じぇねれいしょん』で台詞で強調されたヤンキーと文化系が手を組む瞬間。あの映画ではむしろ台詞に出されれば出されるほど溝が深まっていくように感じたが、今作では、むしろこのちぐはぐさを同一の映画の中、ショットの中に収めることで共存出来ていたと思う。(マイルド)ヤンキーと、文化系。


 ジョージ朝倉の漫画も大学の頃に愛読していた。彼女のギャグに振り切る時は振り切りつつ、時にメロドラマにも振れる恋愛漫画について思いだすと当時のやらかした恋愛のひとつやふたつ思い浮かぶもので。浮気を糾弾しに男湯へ乗り込む多部ちゃんは間違いなくジョージ朝倉世界の住人になっていた。


 ここまで書いてきて思った。この映画は、大学のころぼんやりと憧れていた社会人の恋愛とやらを、いつの間にか追い越して(映画の中の登場人物はいわゆるフリーターだが、このあたりも彼らが移行中の身であることを示す)、そして振り返るような、そんな作品になっていたのではないか。少なくとも僕にとっては。このケーキは甘くないぞ。いや、甘いがこの甘さはちょっと突き刺さるぞ。
乙郎さん

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