JunIwaoka

ザ・レッスン 授業の代償/ザ・レッスン 女教師の返済のJunIwaokaのレビュー・感想・評価

4.0
2014.10.30 @ 27th TIFF
(英題:The Lesson)

金銭トラブルってとても身近な話で、決して自分が悪くなくても見舞われてしまう訳で。身につまされるようなお話なんだけど、恐ろしいのが正しいと思うことをすればするほど窮地に追い込まれて、やがて一線を越えてしまうその危うさ。
そんな運命とは露知らず小学校の女教師は、教室で生徒の財布を盗んだ犯人が名乗り出ないことにたいして苛立ちを隠せない。夫がくすねて家賃を滞納していたことが判明したときですら、彼女は怖いくらい声高に正義を振りかざす。その後、役立たずな夫の代わりに家賃の督促に奮闘する姿は、さっきまで生徒に問いかけていたモラルを問わせる。生徒の中にいる窃盗犯が無視したようにこの教師もその問いに見向けもせず、正当性を信じて疑わない自負が、他人へ耳を貸さずに選択を誤らせていく負のスパイラル。金銭トラブルという分かりやすいテーマはあくまで背景であって、人の本質的な浅ましさに執拗にフォーカスする巧妙な作品だった。描き方で上手いのが、奮闘するときに対峙する夫、銀行員、バスの運転手、サラ金のチンピラまでみんなどこか優しくて憎めないゆえに対照的に必死になる滑稽さを際立たせる。

上映後のQ&Aで登場した主演女優のマルギタは作中の幸薄さは一切感じられない気品溢れる方で女優だった。またブルガリアでは年に数本しか撮られないその一本が東京の映画祭に選出されたことが大々的にニュースで報じられたみたいで思い入れがあったからか、Q&A終了後にマルギタさんが"機会がなかったので、1曲歌っていい?"と流暢な日本語で"手のひらを太陽に"を歌い上げてとても感動的な時間でした。
JunIwaoka

JunIwaoka