半兵衛

東海道四谷怪談の半兵衛のレビュー・感想・評価

東海道四谷怪談(1959年製作の映画)
4.1
日本の伝統芸能とも言える怪談を、中川信夫監督によるセンスある演出と新東宝スタッフの実力により美学にまで高めてアーティスティックに仕上げた一作。元ネタが怪談である以上怖がらせるポイントやグロ描写は外していないのだが、それらをすべて和風な美的感覚の映像に一まとめして怖いはずなのに美しいという感覚に。

その後の怪談やJホラー作品にも多大な影響を与えた作品ではあるが、怖さと美しさという絶妙なバランスを構築するのは難しいらしく現代に至るまで後継とも言える作品がなかなか出てこず、芸術的な怪談映画を挙げる際にこれか『雨月物語』が持ち上げられてしまうという罪作りな作品でもある(そもそも怪談は人を怖がらせるジャンルなのだからアートな感覚は邪魔になるのでしょうがないとも言えるけど)。むしろ市川崑監督による金田一耕助シリーズが芸術性とジャーロ、怪談のおどろおどろしさとケレンという点において『東海道四谷怪談』の流れを継承していると言えるのかも。

井上ひさし、藤子不二雄A、水木しげるなど何気にサブカルチャーにも強い影響を与えた作品だったりもする。

弱い心をつけこまれどんどん悪事を重ねた抜け出せなくなっていく浪人・天知茂や、天知を悪事へと引きずり込む直助・江見俊太郎の熱演が光る。

ちなみに直助が足を入れた桶に蛇が出て来てびっくりする場面があるが、江見氏は蛇が苦手らしくあれは演技ではなく本当に驚いているらしい(一応対策として蛇の口にビニールテープを貼って噛まないようにしている)、『時計じかけのオレンジ』といい蛇嫌いな俳優に蛇を近づけてビビらせるというのは業界あるあるなのかも。
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