むさじー

ボーダレス ぼくの船の国境線/ゼロ地帯の子どもたちのむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

<戦時下の寓話的世界と現実>

紛争下のイランとイラクの国境に放置された廃船。そこに暮らす少年と、船に侵入してきた立場も言葉も異なる人たちとの心の交流。
最初の20分ほどはセリフがなく、川で魚や貝を獲り加工して売って、ただ一人たくましく生き抜いてきた少年の暮らしが淡々と描かれる。
その後はペルシャ語、アラビア語、英語が飛び交うが互いの言葉は通じない。言葉が通じないからこそ、他者に思いを馳せ人は一層繋がろうとする。
やがて3人の言葉を介さないユートピア的空間が作られ、温かい気持ちにさせられたのも束の間、唐突に切り捨てるようなエンディングを迎え、しばし呆然とさせられる。
米兵が少女らを連れ去ったのか、それとも外部の力で連れ去られたのか? 何が起こったのか全く語られず、想像するしかない。
何とも後味が悪いが、それまでの寓話的世界は消失し、これが戦争であって何もかも一瞬で吹き飛んでしまう、という強いメッセージが込められている。
声高に反戦を叫ぶ訳ではないが、戦争は理不尽で残酷なもの、そして失うものの大きさに思いが及び、失った切なさが深く心に刺さる。
監督の長編デビュー作。サイレント映画に近いセリフの少なさは、言葉の壁を超えるという点で実験的、意欲的で、それを補完するだけの映像の力を秘めている。イラン映画には一目置かざるを得ない。
むさじー

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