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エクス・マキナのGreenTのレビュー・感想・評価

エクス・マキナ(2015年製作の映画)
2.5
最初はすっごい面白い話だ!と思った。

エヴァというアンドロイドは、確かに必見!とても興味深い。動きとか音とか、私のような素人が想像できる、しかし、もっと想像力のある人が提示してくれる「なるほど〜」感が満載。しかも、とても無垢な女の子で、いかにも男が好きそうな、『ブレードランナー2049』のデジカノを彷彿とさせるロリータ。

そしてメガ・サーチエンジン会社を運営することでミリオネアーになったCEOのネイサンがすごいいい!インテリなのに「Dude!」とか言うあのくだけた、いかにもIT 業界の人って感じ。めちゃくちゃ上から目線で、わざとわからないようなことを質問してきて、露骨に相手のインテリジェンスを試すような鼻につくところまで、オスカー・アイザックすげー好演していると思った。あと、この人がダンスするシーンが最高!!ここだけでも観る価値あり!

このCEOの人里離れた家に招かれて、AI のTuring Test をさせられるケイラブというコンピューター・プログラマーを演じるドーナル・グリーンソンって人も「あ、こういう人いそう!」ってキャラ。キャストはほんの4、5人なんだけど、役者さんはみんな良かった。

このTuring Test ってのがなんだか分からなかったんだけど、要するに人間がコンピューターとコミュニケーションしたときに、相手が人間なのかコンピューターなのか見分けがつかなかったら、そのコンピューターはテストをパスした、ということらしい。

しかしウィキで見ると、テストをする検査官(人間)は、衝立てを立てられて、相手が人間なのかコンピューターなのか分からない状況で、どちらのレスポンスがコンピューターか見分けがつかない、のような比較で、AI をテストするようになっている。

映画の中でも、ケイラブが「相手がコンピューターだと分かっているのにどうやってテストするんだ」って言ってて、ネイサンが「その段階はとっくにパスした。エヴァの声だけ聞いたら完全に人間だと思うだろ?相手がコンピューターだって分かっているのに、それでも意識があるって思うかがテストだ」って言ってた。

あと、ネイサンの家がいいね〜。なんでもノルウェイで撮影されたんだとか?あの、自然の中に建つシンプルなデザイン。憧れる〜。周りに誰もいないというのもいい!

AI 開発のために、サーチエンジンで人が検索しているデータを解析したり、携帯のカメラを勝手にハッキングして、人の表情を撮影した膨大なデータを解析してエヴァの表情を作ったり、ネット社会がマジで「ビッグブラザー」化していることを示唆する下りとかがミステリー感を高めて、ちょっとワクワクする。

一番面白かったのは「なぜAI にセクシュアリティを与えたのだ」って質問。「人間は繁殖するためにセクシュアリティが必要だけど、AI は要らない。別にグレーの箱でも良かったじゃないか」ってケイラブが訊くと、ネイサンは、「性別抜きにコミュニケーションは考えられない」という。「人間も、環境からセクシュアリティをプログラムされている」って話のところが面白かった。これは、AI をより人間に近づけるに当たって開発者たちが、「じゃあ、人間らしさってなんだろう?」ということを掘り下げて行く中で、私たち人間の方が教えられることが多いなあって。

ここのオスカー・アイザックが素晴らしい!「好みはなんだ?」「えっ、女の子?」「いや、サラダ・ドレッシングだよ!いや、女だ。答えなくていい。仮に黒人の女が好きということにしよう。議論するための仮説だ」ってこの流れ、これも『グリーンブック』で言及したbullshit artist に近いものがある。フレンドリーな議論に見せかけておいて、「黒人の女が好き」というケイラブが「絶対に自分と違う」と思っていることを「仮説」として設定することで、すでに精神的にケイラブをコントロールしているから、議論はネイサンに有利になるし、「いや、サラダ・ドレッシングだよ!いや、女だ。答えなくていい」って畳み掛けることで、この会話を支配しようとしている。ネイサンの人物描写がこの1シーンですっごい良くわかった。

しかしその後のジャクソン・ポーラックだっけ?の絵に関するアナロジー、あの辺りからなんか怪しくなってくる。「チャレンジは、自動的に行動することじゃなくて、自動的じゃない行動を見つけることだ」とかって言ってるけど、「?」。私がアホだから分からないのだろうが、いずれにしろ、この辺からこの映画は難しい事言って相手を煙に巻いてるだけなんじゃないのって感じがしてくる。

そういう目で見始めると、自分が最初っから「なんじゃこりゃ」って思ってたってことに気付き始める。例えば、ケイラブがネイサンの家に来た時ヘリコプターで草ぼうぼうの平地に降ろされて、「川沿いに歩いて行け」って言われるけど、「ヘリポート作んないの?億万長者なのに」とか、AI を作るくらいの人なのに、毎日停電する原因を突き止められないとか、あんなにハイテックな家なのにカード使ってドア開け閉めするとか(笑)。

ただ、「これが全てネイサンが仕組んだことなんじゃない?」だから「なーんだ、ばっかじゃん!」って結論を下すのは早いよな〜って思わせるミステリー要素があるので、それが話を面白くしていることは間違いない。

なんだけど、エヴァとケイラブのコミュニケーションがなんだこりゃって感じになってしまう。ケイラブが子供の頃の記憶を語るとエヴァが「それは嘘」って指摘するんだけど、ケイラブの記憶ではそれが本当なんだからしょうがないじゃん、とか。AI にはそういう「ニュアンス」がなくて、「本当」と「嘘」しかないってこと?あと、エヴァが「ネイサンは嘘を付いている」ってやたら言うけど、何が嘘なんだか最後まで分からなかった。

(この辺からネタバレになってきますので、これからご覧になる方は注意)

で、召使のように使っているジャパニーズの女の子、「全く英語がわからないんだ」って説明されているけど、本物の人間だったら、片言でも、どっかで学ぶよな〜。それに、他に話す人もいないような環境で、何も喋らずいられるわけがない。彼女はAI だった、って後でネタバレされる設定になってるけど、どー考えたって人間ではない!

で、まあ、色々ネタバレされていくのだけど、私の解釈では、このネイサンって人は、色々こまっしゃくれたこと言ってるけど、単にAI 入りダッチワイフを作っているどスケベ野郎だと思った。だって彼が過去に作ったAI のプロトタイプを見てくださいよ!アジア人彼女、白人のボンキュボン、なんか色々いるけど、これIT 的開発じゃねーだろ!良く考えてみれば、私がすごい!って思った会話のシーンで、「どちらにしろ、セクシャリティは楽しいじゃん!」「エヴァの股の間にはちゃんと穴作ってあるよ」って言ってて、小難しいこと言って煙に巻いているけど、ポイントはそこだったんだ!みたいな。

ケイラブを呼んだ目的も、IT オタクですごく頭はいいけど性的にあまり経験のない男の子を、ロリータ的に制作したIT 彼女に会わせて、二人の反応を見てマスかいてただけなんじゃないか。だって、ジャパニーズAI召使いをすでに実用化しているんだから、エヴァをテストする必要ないじゃん。二人をモヤモヤさせて楽しむ、ドS ってヤツ?考えてみたら、ケイラブとエヴァが会話してるシーンを見ているネイサンのベッドにジャパニーズAI 召使いが横たわっていたから、エロビデオ的に二人の会話を観ながらセックスしていたのかも。

これ以上何か深い洞察のある映画とは思えなかった。この映画作った人って、こういう世界の人なんでしょ?自分のファンタジーと、それをもし実現したらこんな目に合うよって自虐なのかな?それともAI 開発も結局は男の性欲ありきで進んでいく?でも女をモデルにAI 作ったら、結局男を出し抜いてこうして世の中に出て行って、最後に人間を支配する?IT オタクの女性観?!
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