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縛り首の縄のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

縛り首の縄(1958年製作の映画)
3.5
[『失われた週末』へのアンチテーゼ] 70点

ポーランドの同年代の作家から浮きまくっているヴォイチェフ・イエジー・ハスの長編デビュー作。流石にデビュー作から後の『サラゴサの写本』や『砂時計』みたいなぶっ飛び具合ではなかったが、よく考えてみるとその二つが特異なのかもしれない。幻想的だった二作に比べ、暗いリアリズムに満ちたアル中映画の佳作。

アル中の青年クバの、恋人クリスティナが仕事から帰ってくるまでの長い一日を描いている。酒を飲みたい衝動と懸命に戦うも、雑誌の宣伝、友人たちからの呑みの誘いやら冷やかしやら、空き瓶回収など酒のイメージを脳裏にちらつかせる小物に囲まれ、たまらず家を出るクバ。常にイライラしていて、元恋人に出くわして"今結婚してるんだけど今でも好きよ"と言われたり、つまらないことで喧嘩して交番にしょっぴかれたり、しょっぴかれた先で酔っ払いに絡まれたり、色々経て結局バーに流れ着き、飲んだくれの爺さんと二人、ウォッカを飲みまくる。

『失われた週末』では恋人の存在が主人公を救った。しかし、現実はそう甘くないということを示したかったのだろうか。必ず帰ってくるわ、一緒に治しましょうとクバを励ますクリスティナの存在が、クバにとっては重荷になって、酒を飲む原因の一つとなっていたのだ。だからこそ放置せず、施設に入れるのが最善策と言えるんだろうけど、クリスティナは仕事に行って、クバを放置してしまう。

最後の自殺は邦題が重大なネタバレをしている。しかし、序盤から映画そのものも"死のイメージ"に取り憑かれて、たまたま立ち止まった場所が葬儀屋だったり、友達の乗ったバスが事故ったりしている。放置されたクバの末路は、必然的なものだったんだろうことは想像に難くない。

ポーランドの名優グスタフ・ホロウベクの初期の代表作らしい。『失われた週末』でオスカーを受けたレイ・ミランドは、その後のキャリアは鳴かず飛ばずだった(失礼)が、ホロウベクはポーランドを代表する俳優となった。これもアンチテーゼの一つのなのか。
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