曇天

シビル・ウォー/キャプテン・アメリカの曇天のネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

本編の感想に入る前にとりあえず気持ちをまとめちゃいます。途中までは粗筋なので観た方は飛ばしてかまいません。

大まかに言えば今回はソコヴィア協定承認を巡って勢力が二分することになります。この協定はアベンジャーズの出動に政府の許可を要するよう取り決めた法律です。
トニーの立ち位置は、力が強すぎるアベンジャーズの出動を法で縛ることで戦いで生じる犠牲を最小限に抑えようという政府側。
キャップは、アベンジャーズが法で縛られては必要な時に出動できなくて、救うべき人を救えない、むしろ被害が増加してしまうという自警団的志向で協定を拒否します。

このソコヴィアとは、前作『エイジオブウルトロン』の戦いにより壊滅的被害を被った東欧辺りの架空の小国です。本作序盤でトニーの前に現れた国務省職員の女性は「ソコヴィアにいた息子を殺したのはあなただ」と言ってトニーを詰ります。ソコヴィアの戦いでは、ウルトロンが隕石を再現しようとソコヴィアを陸地ごと持ち上げた際、同時に市民を人質に取った形になりました。その時の犠牲はアベンジャーズが市民を助けながらウルトロンを倒そうとした結果なので、客観的には不可抗力なのですが、そもそもウルトロンはトニーが作りかけたマシンが暴走したものなので、彼は特に強く責任を感じたのでしょう。

国連主導のソコヴィア協定調印式で突如爆破テロが発生し、ワカンダ国王含む死傷者が出ます。監視カメラに映っていた犯人の顔はキャップの戦友バッキー。キャップは先回りしてバッキー本人から無実を確認し、真犯人がいると見込んで追っ手を遮りますが2人とも捕まります。重要参考人であるバッキーのみ隔離して尋問を始めますが、尋問係の男が妙に怪しい(序盤から断片的に語られている男なんですがヒドラの残党スパイのような素性です)。男がバッキーに暗号を唱えると自我を失って暴走し逃亡します。また前後しますがこれもちゃんと本作冒頭にある描写で、バッキーはヒドラで洗脳を施されており、暗号をかけられるとヒドラの手先としての洗脳が復活するのです。
●粗筋終わり●


前作『ウインターソルジャー』で旧ソ連の組織ヒドラの暗殺者として登場したことでもわかりますが、バッキーはヒドラの命令で自分の意志とは全く無関係に殺人を繰り返してきています。キャップはバッキーの行為を「洗脳されていたから」という理由で特に咎めず、匿って一緒に真犯人を追います。
このキャップの思考は「アベンジャーズの行為」に対する見方と同じです。行為そのもので犠牲を出してしまったとしてもそれは本意ではなくて、大勢を助ける意志の方こそ本意なのだから、多少の犠牲は仕方ない。不完全な行為を改める方よりも崇高な意志を遂げる方が優先する、と考えているのでしょう。少し傲慢にも見えますがこれは同時に「多少の犠牲に目を瞑るからこそ大勢を無事に助けられる」とも言えるので批判の難しい問題なんですね。

終盤とあるキャラが自分の胸中を打ち明けるシーンがありますが、僕はここで沖縄県うるま市の死体遺棄事件を思い出してどうしようもなく胸糞悪くなってしまいました。4月28日から行方不明だった女性が嘉手納基地の元海兵隊員に暴行、強姦されて5月19日に白骨死体で発見された殺人事件ですね。僕も注意して見ていたニュースではないので詳しくはなかったのですが、遺体が見つかった後に沖縄副知事が言っていた「基地があるから被害が出るんだ」という言葉が頭に残っていたんですね。細かい現実的な批判はできるのかもしれませんが、基地がなければこの女性は殺されなかったという根本の因果関係は覆せないものがあります。

なぜ思い出したかというとその基地反対の主張が「アベンジャーズ犠牲者の苦痛」と重なったからです。基地の軍事力の傘に守られる代わりに米兵犯罪の犠牲を強いられるという意味で、米兵犯罪の被害者はソコヴィアの犠牲者とそっくり同じ立場にいるんです。ソコヴィアは沖縄であり、アベンジャーズは在日米軍であり、あの国務省職員は島袋里奈さんの遺族であり、洗脳時のバッキーはシンザト容疑者なんです。奇しくも本編中バッキーは冷凍睡眠でアベンジャーズからトカゲのシッポ切りにあい、恨みの矛先がうやむやにされます。

この容疑者は軍人じゃないので地位協定に正しく従わせるか、地位協定を改めるか早くどちらかして欲しいですが、自分にできることと言えば事件のことを調べたり被害者のことを忘れないでいることくらいで。基地の是非どうこうは関係なく、自分の生活が軍事力の傘を着ている以上は、被害者が自分に関係なくても、その被害者の犠牲の上に生活が成り立っていることを忘れずにいることが大切なんです。ただ今日はクッソ胸糞悪くなってしまった次第です。

本作はアメリカの話なので最初はシリア空爆の民間人犠牲者のことを考えていたのですが、それにとどまらず正義の名のもとの犠牲という意味では死傷問わず世界中にあることなんだろうと。本作の徹底的に犠牲者視点に絞った作風は見事です。ツラいのでもうやめて頂きたいですがね…。映画自体は脚本も上手くて凄く楽しめました。
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