クシーくん

スポットライト 世紀のスクープのクシーくんのレビュー・感想・評価

4.0
叫びだしたくなるような醜悪さを敢えて前面に押し出さずに、淡々と事件を追っていくのが渋い。教会関係者を露悪的に描くでもなく、被害者の振り絞るような証言から暗闇に浮かび上がる背景画のようにその悍ましさ、痛ましさが見え隠れする。家庭環境が不和で、他に頼るものもない非力な子供が邪悪な罠に陥っていく様子が被害者を通して丁寧に語られていく。本来であれば弱い人々を救う筈の教会という互助的システムを悪用する神父がこれほど沢山いて、その犯罪を枢機卿が隠蔽するなら誰を頼れば良いのか。日本人で非信者の私よりも、アメリカ人にとっては教会が遥かに身近な存在だろうし、既知の事実とは言え本作はより強いショックをもって受け入れられたのではないかと思う。

事件もそうだが、一番恐ろしいのは虐待の件を知る弁護士や旧知の友人が何度となく無かった事にしようとすることだ。地域の絆でありその基盤を保つ教会を乱したくないという、その愚鈍なまでの閉鎖性、保守性が数限りない惨事を齎した。恐らくボストンだけではなく、その他の地域にも大勢いた、良心ある事なかれ主義者によって。コミュニティの分断を防ぐために子供達が犠牲になって良い筈がないのに。

主演俳優陣はいずれも好演だったが、特に弁護士を演じるスタンリー・トゥッチ今回も渋い良い演技だった。ちょっと変人だけど本件解決の決定打を鮮やかに導き出すスマートさに惚れる。

最後のテロップでボストン以外のアメリカ全土の都市どころか世界中の教会の名前が延々と連なり心肝寒からしむる。これすら氷山の一角に過ぎないという示唆も含めて。ゲーガン事件を隠蔽した枢機卿はバチカンに栄転という短いテロップが最後まで胸糞悪い余韻を残す。
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