チョマサ

シン・ゴジラのチョマサのネタバレレビュー・内容・結末

シン・ゴジラ(2016年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

まじめなことを書きます。
黒田硫黄さんの『映画に毛が三本』て映画のレビューを漫画と文章で書いた本があるのだけど、そのなかの『フラワーズ・オブ・シャンハイ』の紹介文に「映画を観るとは、1800円払って異世界に連れていってもらおうとする行為なわけで、これはみごとに連れていってくれた作品です」とあります。この文章がこの本の中で一番好きなんですが、この『シン・ゴジラ』も異世界に連れていってくれる作品です。そしてこの数年に起きたいろんな出来事に対する思いもすくい取ってくれた作品になってると思います。


以下は所感。長いです。
「うわなっげ!」って思うほど長いんで、メンドクサイと思うかもしれません。読みたい方はどうぞお読みください。


たぶん書くことがどんどん追加されると思います。


庵野総監督は頭の中に映画やアニメの完成したものが全部入っていて、それをそっくりそのまま再現するタイプの監督なんだろうなと思った。クレジットを見ても音響設計と画像設計とコンセプトデザインを担当していて、自分が見たものがそのまま出てこないと現れるまでこだわる人なんかなと思った。


この映画は、相当こだわってるなぁと思ったのが、まずタイトルバック。昔の東宝マークとブルーに白抜きの東宝映画作品の表記。


次に音。東宝特撮映画の爆撃の効果音をそのまま使っていた。公開前はなんでモノラルなのか分からなかったけど、これのためかとニヤケテしまった。


映像もフリージャーナリストと会う場面は小津安二郎みたいな構図で話してたり、構図が細かく設計されてる。


この映画はリアル志向で作られてるみたいだけど、それなのに音が既存の効果音だったりと変なバランスになっている。それは東宝怪獣映画へのオマージュや怪獣がじっさいにしかもゴジラだとしたらどうなるかといった妄想といってもいいオタクなシミュレーション、そして現実に起こったことを盛り込んだが故の奇跡的なバランスなんだろうか。


もしステレオだったら情報量が多すぎて、見ている人は何が起こっているかついて行けなかったと思う。それくらい展開が早い。


『ソーシャルネットワーク』に三時間の脚本を早口で喋らせることで二時間の映画にしたという話があるけど、この映画もそれと同じことをやってる。だから専門家が専門的な話を早口で喋ると分からなくなるのだけど、それを聴いていた周りの人間が「こうこうこういうことか」と要約してサポートしてくれる。


『日本のいちばん長い日』(まだ全編見てない。『沖縄決戦』も同じことをやってるのかな)みたいに字幕で各登場人物の説明。『殺人狂時代』みたいに編集も余ったところを切ってる。どんどん切り替わって映画のスピードが落ちないし、それが劇中でのゴジラ対策の忙しさにもあってる。


それらの作品を監督した岡本喜八監督も、写真で牧五郎博士として登場している。この映画は庵野総監督が好きなものとかこだわってるものを全部詰め込んだんだろうな。もしかしたらスタッフもかもしれん。しかも牧博士の居た大学が城南大学でさらに笑った。


この牧博士がいなくなって始まる物語展開はパトレイバーの劇場版一作目みたいだなと思った。博士がいたであろう船のあるところからゴジラが出てくるのも博士がゴジラになったみたいなことなんだろうか。そしてゴジラが第四形態、あの見慣れた直立形態になってから鎌倉の海から現れるのも、ゴジラ1作目と同じでマジでこだわってるんだなと感心した。


この映画は、やたら顔のドアップが出てきて会議シーンばっかり出てくる。実際も手順を踏んでやらないといけないんだろうなって勉強にもなるんだけど、それよりも『童夢』の爺さんの見開きなみに画面いっぱいに顔が出て来るんで、これ顔の隅々まで映るから俳優さんたちは恥ずかしいところあるんじゃないかなって気になったけど、渡辺哲さんや國村準さんや、平泉成さんや嶋田久作さんといった濃い顔の人たちのカッコいい顔を見られて良かった。会議シーンばかりだけどそれがすごく面白いから二回見た。


どの人間もキャラクターが立ってるんだけど、なにより避難やゴジラに立ち向かおうってだけじゃなく、所々で建前じゃない本音を出すのが人間味があってよかったと思う。殆ど仕事の態度で出てくる人間ばかりで、石原さとみさんが演じる役がああいった浮いてる態度なのも、アメリカ側の人間というところもあるけど、あの張りつめた人間ばかりじゃ最後まで観るのがきついのもあるからと思う。


この映画に出てくる人間に人間味が薄いのは、この役所の世界のはみ出し者ばかりなのもあるけど、この緊急事態に弱音や自分を出せないと思ってたり、仕事なのだからそんな態度は出すべきでないと、仕事の態度で臨んでるからだろうか。それでも高橋一生さんや津田寛治さん、市川実日子さん、塚本晋也監督、野間口徹さんといった対応チームの連中は本当におもしろかったな。あの対応チームで会議を開くときにエヴァの音楽がかかるのも爆笑でした。


あと御用学者として出てくるのが犬堂一心監督、緒方明監督、原一夫監督と映画監督チームなのもおもしろかったな。


科学でなんとかゴジラを倒そうとするのに空想兵器が出ないのも面白かったな。できるだけ現実的にしようとしてる。そう思う。


いちばん度肝を抜かれたのはゴジラの最初に上陸した姿。次に度肝を抜かれたのはゴジラが熱線を吐く場面。そして背中からも吐いたこと。尻尾からも。今までのゴジラとかけ離れてるといってもいいんだけど、真夜中に東京を蹂躙する、体に紫と白の光を浮かばせたゴジラの姿を見たら、これはゴジラだとおもった。超カッコいい。ガメラの東京タワーに巣をつくるギャオスと並ぶ名シーンですよ。そんな場面がたくさんこの映画にはある。口にポンプ車で凝固剤と抑制剤を入れる場面や、ガスから炎を吐いたかと思うと次々に洗練されて熱線に変わっていくシークエンス。怪獣の場面もいい。


本当に最高だったのだけど、子どもは見るのが大変と思う。最初の形態のゴジラはキモいし、難しい言葉ばっかり出てくるし。それでもゴジラが熱線で飛行機を撃ち落とし、街を燃やしていく恐ろしさや美しさや興奮。出てくる人間が役所や出世やいろんな思いを隠して裏で立ち回るけれども、首都や日本を守ろうと動き回るのは、何をやってるか分からなくても、彼らの姿は目に残ると思う。

最後に見ててきついなと思ったのが、間がないこと。物語からして後半は休まるところがないので、ずっと緊張しっぱなしになって疲れる。
どっぷりハマれるなら少し疲れるだけかもしれないけど、ノれない人には画面で何が起こってるかさっぱりわからないと思う。
チョマサ

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