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独裁者と小さな孫のTTのレビュー・感想・評価

独裁者と小さな孫(2014年製作の映画)
3.5
“わかりやすい”マフマルバフ作品だった。

僕は中東圏の映画には非常に疎いのだが、イラン映画ってシュールリアリスティックで説明を省いた作品が多い気がする。マフマルバフの映画もまた同様。

しかし、本作はどちらかと言えばオーソドックでわかりやすい作りの作品だ。ストーリーは、失脚した大統領と彼の孫が海を目指すという明解なゴールが設けられているし、劇中で分からない箇所はない。また、シュールな画づらもあまりない。そういったリアリティラインを下げないような演出をした結果、主人公である大統領だった男と彼の孫が目にする悲惨な光景の数々が、いつの時代、どこの国にも当てはまる事であるという普遍性を持たせることに成功していた。

さすがはマフマルバフと言うべきか、観客を惹きつける画もあった。特に、妻の元へ5年ぶりに帰る政治犯の悲劇を、彼のアップの長回しだけで見せた演出は強いインパクトがある。

だが、“わかりやすい”ということが必ずしも良いとは限らない。本作は今までのマフマルバフ作品に比べて、画で語るというのが少なくなってしまったがために、説明的な台詞が多かった印象がある。例えるなら、戦争はいけないということを表現するために、登場人物に「戦争はいけない」という台詞を大声で叫ぶような感じだ。僕は、映画は台詞よりも画で語って欲しいという人間なので、クライマックスの復讐の連鎖を断ち切るというのが浅はかなものに見えてしまった。

画で語らないという問題に通じることだが、『カンダハール』におこる砂漠のド真ん中でいろんな色のブルカを着た人たちの行列を捉えたロングショットのような、ハッとさせられる画が少なかったのも残念。

しかし、それまで独裁者を支持しておきながら、いざとなったら手のひらを返したように蜂起を行う民衆たちの愚かさ、独裁者を倒しても新たな争いが生まれてしまうという世界の残酷さを描いたというのは評価に値する。
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