綾

はじまりへの旅の綾のネタバレレビュー・内容・結末

はじまりへの旅(2016年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

いとおしい映画だった。お父さんもおじいちゃんもおば(妹)も、誰も間違ってなんかいなくて。それぞれに信じるものがあって。それぞれの方法で子どもたちを守ろうとしていて。

キャッシュ家の森での暮らし、豊かで幸福だなあと思う。ちょっと羨望のような気持ちで眺めていた。地に足踏みしめて、知識と知恵を頭に詰め込んで、自分の力で生きていくということ。
現代の恩恵に授かりながら、そして自然の危険な側面を知らず傲慢かもしれないけれど、でも、古代の狩猟採集民的生き方に、郷愁のようなものを覚えることもたしかで。

キャンプ場でのプロポーズ、胸がきゅうっとなった。自分の「真剣さ」が誰かにとっての「イタさ」なんだと気づく、あの一瞬の衝撃。じわじわと恥ずかしさが込み上げてくる感じ。知っているなあ、と思う。ボウの心が伝わってきて切なかった。

人間は社会的な生き物だから。いくら信念があろうと、志が高かろうと、結局は群れて馴染んで生きるのが自然な在り方なんだと思う。
Netflix版 ASOUEで、「腐敗と傲慢に満ちた世界で、文学や哲学的な信念に従うのは難しい」と言われていたけれど、まさに。
お父さんの思想に共鳴する部分があったから、ボウの叫びが直に刺さった。
「僕らはみんな変人なんだ!本で読んだこと以外は何も知らないんだ!」

子どもを危険なものや汚いものから遠ざけようとするのも、大人のように扱って現実を教え込むのも、極端になると害になる。世俗的な生き方と、哲学的信念に則った生き方も。バランスが大切なんだなあとつくづく。でもそれが難しい…

そんなふうにぐるぐる考えながら、何が「正しい」のかもうわからなくなってしまったから。だから、お母さんの火葬シーンで胸がいっぱいになった。いろんな複雑なもの -常識とか倫理とか正しさとか- そういう色々を取っ払った先の、あの光景。キャッシュ家の「異様さ」がいとおしくてたまらなかった。
空港での別れのシーンも良かった。お父さんもボウも弟妹たちも、いちばん大切な信念は変わっていないんだって。森の中であろうと、世俗社会であろうと。環境も人も変化するけれど、変わらないものだって確かにあるのかもしれない。なんだか嬉しくて幸せで涙が滲んだ。すごく愛しい映画だったな。
綾