OASIS

クリード チャンプを継ぐ男のOASISのネタバレレビュー・内容・結末

4.6

このレビューはネタバレを含みます

シルベスター・スタローンの代表作「ロッキー」シリーズの意志を継ぐスピンオフ作品で、かつてロッキーのライバルであり盟友でもあったアポロ・クリードの隠し子アドニスとそのセコンドにつく事になったロッキーとの師弟や友情を描いた映画。
監督は「フルートベール駅で」の新鋭ライアン・クーグラー。

体内の水分が枯れるくらい涙が出た。
予想以上に客入りが少なかったので、周りを気にせず思う存分ウォンウォン泣いた。
前に座ってたおっちゃんも、後ろに座ってたボクサーとそのセコンドっぽい関係の二人組も、共鳴するようにボロボロ泣いてた。
リアルタイムでは無いがロッキーシリーズはもちろんの事全て観ているし、第一作目以降着実にクオリティが落ちてから最終章であるロッキー・ザ・ファイナルで巻き返しを果たしたという流れも観て来た訳で、そういう意味でも綺麗に物語が終結した感はある。
ただ、今作はその流れを築いてきたロッキーから次世代へのアドニスへと襷が渡される物語であり、今後のシリーズの動向と落差は気になるもののロッキーシリーズ一作目と同様に現段階でしか作り得ない、作ることに意義や意味のある傑作であった。
あのアポロに実は愛人との隠し子が居たという後付け設定も甚だしいくらいの設定なのだが、アポロも結構な遊び人気質だったのでそこは引っかかっても仕方が無いか。

父親の存在を知らず施設暮らしをしていたアドニスが、アポロの妻であるメアリー・アンに息子として引き取られてから数年後。
学校も卒業、無事安定した仕事に就き何不自由無い生活を送っていたアドニスだったが、自分の中に眠る父への想いとボクシングへの情熱を胸に仕事を退職しかつて父と伝説的な試合を繰り広げた友であるロッキーのいるフィラデルフィアの地へと降り立つ。
施設やメキシコ仕込みの自己流のやり方で勝ち上がって来たアドニスは、慢心がたたり屈辱的な負けを経験しもう一度自分を見つめ直す事に...。
アドニスからロッキーへ、そしてロッキーからアドニスへと、意志とドラマが軽やかに移り変わりかつ熱く紡がれて行く展開には何度も涙。
英雄であり伝説となったロッキーが街中を歩けば憧れと尊敬の眼差しで見つめられるというのも感慨深くてそれだけで泣けてしまうし、スタローンのもう行く所まで行き着いてしまったかのような達観した佇まいもその味わい深さを何倍にも高めてくれる。
そんなロッキー自身も逃れられない戦いへと身を投じて行く事になる後半は、もう「いつでも泣けまっせ」と涙が常にスタンバイ状態になっていてプルプル震えながら観ていた。

ロッキーシリーズには欠かせないトレーニング・シーンも満載で、反復反復また反復練習の繰り返しで着実に技のスピードやキレが増して行く様を小気味良く軽快に、そして丁寧に見せてくれる。
「ロッキー3」のアポロとロッキーとのトレーニング場面を彷彿とさせるような、ロッキーとアドニスが二人で行うトレーニングは全ての場面が「あのロッキーがアポロの血を受け継ぐ者を指導している」というだけでもう既に熱い。
アドニスの後ろを不良のウィリー爆走集団が追走するシーンは「ロッキー2」のトレーニング・シーン(かのくりぃむしちゅー上田の名ギャグ「皆ゾロゾロゾロゾロついてきてるけどさ〜、これロッキーの撮影じゃないのよ〜」の元ネタ)と重なるし、試合描写以外にも滾り所泣き所が無数に存在するのでストーリー的にもトレーニングシーン的にも過去作の復習はマスト中のマストである。

もちろん試合の描写も全く気を抜いておらず。
クライマックスもそりゃ良いんだけど、その前座であるランク2位との初戦の方が見せ方的には燃えた。
1ラウンドを完全に1カットの長回しで撮り切るというリアルタイムの緊張感と、キャラクターに密着して周りから張り付いて離れないような臨場感溢れるカメラワークが没入度高し。
クライマックスの試合はそれに比べるとカットを割り過ぎている分一発一発の軽さが出てしまっていて、もっと1カットを丁寧に見せて欲しかったなとは思う。
打ち合いの勝負になって来ると尚更、一発で蓄積されたダメージが後でどれだけ効いてくるかという話になるので、大振りなフックやアッパーに限らず、ジャブにしてもボディにしてもそれなりに重さは同等に感じさせるべきだろう。
ただ、スローモーションを多用しない所は良かったし、何より有名過ぎるテーマ曲を主張し過ぎない程度にここぞという場面で少しだけ流すというのがズル過ぎて、もうあの音楽が流れるだけでパブロフの犬状態で泣いてしまうのだった。

「フルートベール駅で」と同じく、ライアン・クーグラー監督とマイケル・B・ジョーダンという黒人目線側だからこその目線であるとか、色眼鏡で見られて来たような彼らだからこそ持つ視点みたいなものももっと欲しかった気はする。
具体的に言うとアドニスのガールフレンドであるビアンカのあの設定とかはもっと活かしどころがあったように思うんだけども...。
そこらへんはまた次作で活かされて来るんだろうか。
というかロッキーシリーズは急に10年以上も間が空いたりとスパンが結構長いので、早くしないとスタローンが本当に自分と戦わなくちゃ行けなくなってしまった場合が一番怖い。

2015年は「ジュラシックパーク」「アベンジャーズ」「ターミネーター」「マッドマックス」「007」「M:I」そして「スターウォーズ」等近年稀に見るような有名シリーズの続編祭りだった年。
どれも皆「伝統的」であったり「継承」が主立ったテーマであったりと殊更次世代が強調された年でもあったように思う。
本作は、劇中でも「007 スカイフォール」で列車が突入して来る場面が一瞬だけ映るが(何故そこのシーンなのかは分からないけど)、その映画的意味合いからしても世代交代としてのメッセージが強く、そんな年の締めくくりとしてここまで相応しいものは無いのではないだろうか。
2015年度マイベストワン。
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