nt708

山の音のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

山の音(1954年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

これは大好きな成瀬映画の中でも特に好きな作品。これまで川端康成の小説を原作とした映画をいくつか観てきたが、ここまで小説の読了感と遜色ない感覚を観賞後に得る作品もなかなか稀有だろう。それほどまでに成瀬の映画は自然で慎ましい。どこにでも起こり得そうな日常を描くことで観客自らドラマ性を見出す余地を与えているのである。

本作で最も印象的なのは、やはり原節子の存在だろう。私にとっての彼女との出会いは小津作品である。そこでの彼女は戦後の疲弊した男性を癒すような存在、戦争を経験してもなお日本人女性は気品を失っていないことを象徴するような存在だった。しかし、このような女性の描き方は男性にとっての理想像であり、どこか曖昧でとても受け入れがたかった。一方で本作をはじめ、成瀬映画に登場する女性たちは共通して芯が強く、それでいて気品がある。本作の原節子はそれを代表するような存在だったのではないだろうか。

派手ではないのに、カメラを向けた先には必ずドラマがある。日常を描くだけでドラマになることを成瀬はわかっていてこのような映画を撮り続けてきたような気がする。私もそのような人の営みを優しく包み込むような映画が撮りたい。慎ましく、自然に、、これがモットーである。
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