Mikiyoshi1986

みかんの丘のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

みかんの丘(2013年製作の映画)
4.3
1992年のジョージア(旧グルジア)内アブハジア自治共和国を舞台に、アブハジア紛争からヒューマニズムを紐解く人間ドラマ。

1991年のソ連解体後、ユーラシア大陸に残されたのはあらゆる民族間の軋轢や領土を巡る内戦の火種であり、
ジョージアからの独立を主張するアブハジア、ロシアやチェチェンからの援助でそれを阻止しようとするジョージアとの攻防は今現在も続いています。

本作で大変素晴らしい点は、第三者のエストニア人による俯瞰によって物語は綴られていること。
ロシア帝政時代からソ連崩壊まで永らく統治され、かつて北欧のエストニアからグルジアに入植した彼ら移民の歴史はこのアブハジア紛争に明瞭な客観性をもたらします。
そして彼らもまた争いに翻弄され、切り開いた土地を追われつつある現状も描写。

まるで戯曲のような無駄のないシチュエーションと登場人物によって本編は構成され、90分以内でこの上ないほど簡潔にまとめ上げた力量にはただ唸るばかり。

徐々に戦火が迫り来るみかん農園でみかん箱を作り、何度もクリストファー・リーに空目したエストニア人の爺さんイヴォ。
彼の家にそれぞれ担ぎ込まれたジョージア支援側のチェチェン人負傷兵アハメド、敵対するアブハジア人負傷兵ニカの看病は一触即発の敵意を氷解させ、民族・宗教・文化を越えた人間同士の交流を発展させます。
現代における「戦争と平和」を今一度想起。

イヴォがエストニアに帰国しようしない理由、そしてその家族にまつわるエピソードにも心を打たれました。
戦争に対して「映画」の役割を大いに感じさせてくれるヒューマニズムの傑作だと思います。
Mikiyoshi1986

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