みかんぼうや

国際市場で逢いましょうのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

国際市場で逢いましょう(2014年製作の映画)
3.5
【朝鮮戦争での家族生き別れ後、残された家族を守るために自己犠牲の人生を歩んだ男の人生賛歌】

U-NEXT11月配信終了視聴マラソンの一作。
序盤の故郷からの避難シーンから、思っていたよりもずいぶん壮大な映像と音楽で、韓国映画を見ているというよりも、韓国を題材にアメリカで作られたハリウッド映画を見ているような錯覚に陥ってしまうなかなかド派手な演出。正直なところ、感動系ヒューマンドラマの過剰演出には結構引いてしまいがちで、途中でコメディ要素を挟む作り方も含め、同じ韓国映画の「7番房の奇跡」が自分には全く合わなかったことが頭によぎったのですが、本作はあまり懐疑的な見方をすることなく、最後まであっという間に見ることができるくらい面白かったです。最後はしっかり涙腺もやられてしまいました。

その理由として、そもそも本作の題材となっている“朝鮮戦争以降の韓国”(1950年代以降)の韓国の世情とそこに生きる人々の生活にフォーカスした映画を見たのがおそらく初めてで(同時代の中国を描く映画は「活きる」をはじめいくつか見ているのですが)、その時代に韓国内で起きていた様々なできごとや当時の韓国人の生き方や考え方に触れられたこと自体がかなり新鮮で、また学びがあったことが大きいでしょう。朝鮮戦争の影響による家族の生き別れがストーリーが骨子にありつつ、ドイツ炭鉱への派遣、ベトナム戦争、生き別れの家族との再会運動など、その時代背景を垣間見ることができ、その中で当時の韓国人(特に韓国男子)たるものがどうやって生きてきたかということに、本作を通じて非常に興味が沸きました。

全体的な演出は、正直やはりかなりベタな過剰演出気味で、冒頭に記載した通り、本来であればヒューマンドラマの過剰演出はあまり好きではないのですが、私のようにこの時代の韓国の社会背景に深い知見がない初心者でも、かなりテンポよく楽しく見られたので、正直これくらい“分かりやすい映画的演出”がふんだんに盛り込まれていたことは、本作についてはかえって良かったのかもしれません。

また、「7番房・・・」のような、もはやファンタジーと言える非現実的過ぎる要素が詰め込まれているわけではないので、作品との距離感で思いっきり突き放されるようなことが無かったのも私には良かったように思います。

本作は同時代に生きた男性ドクスの祖国と家族のための自己犠牲の人生について描く作品で、知識が浅い私としては、正直なところ、当時のどの程度の割合の男性がこのような人生を過ごしたのかは正直分かりません。しかし、日本もそうですが、この厳しい時代に生きた先人たちの苦悩と努力があって、今の我々の、当時に比べて何不自由ない時代生活が築かれているのだ、ということを考えると、映画の中でも “やや時代に置いていかれがちな聞き分けの悪い頑固老人”として描かれていますけれども、少なくとも家族だけでも、私たちの今の礎を作ってきたこの世代を敬う気持ちは常に大切に持ち続けたいものだ、と改めて思いました。

また韓国では、本作が同国映画史上4位の観客動員数を記録し、国内の映画賞を総なめしたようですが、このヒットだときっと若い世代も足を多く運んだでしょうから、その若い世代が本作を見てどのように感じたのか、大変気になりました。そして、日本で同じような映画を作ったとしたら、国内でそんなに人気になるのかな?などと、ちょっとした疑問を持ってしまいました。

余談ですが、繰り返し書いた過剰演出の中には音楽の使い方も含まれるのですが(いわゆる感動系シーンで感動的な曲を盛大に流す)、実はその音楽は素敵な曲が多くて、エンドロールで流れるメインテーマ曲は、少し「ニュー・シネマ・パラダイス」のメインテーマを思わせる楽曲で、少しノスタルジックな気持ちになります。ということで“過剰”などと言いつつ、しっかり音楽も映画の中でいい味を出している作品でした。
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