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エンドレス・ポエトリーのninjiroのレビュー・感想・評価

エンドレス・ポエトリー(2016年製作の映画)
4.1
夢は消えた。誘惑の瞳、ポケットの無い穿き物。視界を遮る性も死も相応しい隠し場所を持たず、両手は握ることを知らされず、切り花を敷き詰めた箱の中、幾億の針先により構成された道の無きガレージの中、優雅に飛ぶ大鷲の夢。

イーリスよ、信ずる者以外を妨げ給うな。元より意味なく集いし炭素の塊、右手を掲げ、左手を更に高く掲げる為に、ただ高く魂を空へと解き放つ為に、死斑の浮いた足先を以て、水面を震わせ翠に輝かせ、光に瞬くは象牙色の糸、その音は飛沫のように瑞々しく、向かう目印は激しく脈打ち深くへと血を献げる。纏った蝋は鋸の刃のように規則的に持ち上がり、剥離して連なり前後して畏れる。布ずれにさえ鋭敏に、爪先のような声で優しく奏でよう、最初から愛してくれた理由を。最後まで愛せなかった理由を。希望を抱き続けて乾涸びた鳩、故郷を遠く離れて死んだ訳を。シーツの上、言い訳の一つもなく産まれ、愛し、憎みながら死んでゆく。書割の街と人を眼下にそれでも春が輝く、虹色の羽衣は風も舞わない路地裏で中空に浮いたまま、見上げればこの身は俄に打ち震える。

こみ上げる歓びよ、この詩は終わらない。交わり合う歌声に乗せて、見つけ損なった慈しみを暖かさを。
胸を貫く哀しみよ、この詩は終わらない。嘆きは優しく跳ね躍り、見つからぬ言葉は探すまでも無く。
夢は現と混ざって波を成し、行きつ戻りつするようで二度とは戻らない。あらゆる物を捨て、命を燃やし、魂を讃え、旅は続く。夢は消えた。この詩は永遠に終わらない。
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