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黄金のアデーレ 名画の帰還のblacknessfallのレビュー・感想・評価

4.2
なかなか過ちを認めないという意味で国家ほどやっかいなものはない。
なので古今東西、個人が国を訴えると心身ともに激しく疲弊する。おまけに司法はめったに個人に寄り添わない。なのでたいてい個人が負ける。。
それが他国なら尚更。

ナチ占領下のウィーンから命懸けでアメリカに航ってきた苦労人の主人公のマリアもそんなことは充分わかっているはずだけど、訴えずにいられなかった。
あのクリムトの画は単に金になる名画なだけでなく、侵略で引き離された彼女の叔母をはじめとした親族との思い出、人生の一部だから。

てっきりこの実際にあった裁判の顛末を詳細に画いたミニマルな法廷劇なのかと思ったが、裁判の過程を進行させつつ、マリアの歩んできた人生もかなりしっかり入れ込んでくる。
なので、クリムトの画がいかに彼女にとって大事なものか?また、いかに現在、オーストリアがこの画を所有してることが理不尽なことか観てる側にもはっきりわかるのでいやでも主人公の思いにシンクロする。

観てる方すらそうなので当初は金目当てで本件を受任した弁護士も自身のオーストリアのルーツに目覚め途中からマリア以上にこの裁判にのめり込んでいく。
この弁護士の心情の変わっていくさまがすごい自然でよかった。殺人の追憶のソン・ガンホを思わせて。それとほぼキャリアのないぺーぺー弁護士が世間の耳目集める事件であっぷあっぷしながら必死に活路を見出だすとこはラリー・フリントのエドワード・ノートンっぽくもあった。

しかし、これ上映時間108分なのによくこれだけの内容を詰め込んだなって関心した。無理に駆け足になってるとこもなかったし。

あと国家の責任の取り方とは何なのか?って深く考えさせられた。
オーストリアはじぶしぶとは言え、この件の略奪は認めたのでそこは評価すべきなのか?
ナチの占領下で不当に収奪され持ち主の手に戻ってない美術品は10万点はあるらしい。オーストリアはそれに真摯に向かい合えるのか?
侵略、略奪と言えばもちろん我が国も他人事ではない。
真摯に向かい合ってると言えるのか?
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