ノッチ

教授のおかしな妄想殺人のノッチのレビュー・感想・評価

教授のおかしな妄想殺人(2015年製作の映画)
3.0
アメリカ東部の大学に赴任してきた哲学科の教授エイブは、人生の意味を見失い、孤独で無気力な暗闇に陥っていた。

ある日、迷惑な悪徳判事の噂を耳にしたエイブは、その判事を自らの手で殺害するという完全犯罪を夢想し、次第にその計画に夢中になっていく。

新たな目的を見い出したことで、エイブの人生は再び輝き出すのだが…。 

ウディ・アレン監督が、ホアキン・フェニックス、エマ・ストーンを主演に迎え、生きる気力を失っている哲学科の教授が見出した生きる目的を描いた映画。 

<人生は無意味>と人生に絶望する教授は、殺人を思いついて光り輝くというブラックな設定。 

これもまた多くのウディ・アレン作品と同様に『罪と罰』の変奏。

しかし大きな違いは、殺人に手を染める哲学教授ホアキン・フェニックスが、まるで罪悪感を抱えないばかりか、人を殺したことで実存的危機から脱して快活な人柄になり、日々の生活にも俄然しなりが出てくるというアブない主人公であることだ。 

文脈は難解ではない(と思う)が、知的用語が沢山出てくるので、多少入り込みにくい。 

…と思った前半だったが、“妄想殺人”を思いついてから一気に動き出す。 

知力の高い教授にしてみれば、<正義>とて理屈の道具の一つに過ぎない点に危うさを感じる。 

ウディ・アレンの映画には、いつも皮肉が付きまとう。 

それが辛辣な笑いを生むことをアレンは知っているからだが、皮肉が人生そのものを映すというのが、皮肉を好む最大の動機だろう。 

今作も、そんな皮肉に貫かれた物語だ。 

なにせ、生きる目的を失った哲学科の教授が、殺人を計画することで生きる意味を見い出すのだから。 

でも、心の闇を拭い去る方法が人殺しなんてありえないと思うのです。

正直、タイトルほど軽いコメディって感じじゃない。 

言うならば、人間の思考の矛盾に笑けてくるダークなコメディ。

というか、題名と内容がかみ合ってない。

教授の殺人は妄想ではないんだから。 

モラルに欠ける言動や描写などは「アレン映画を観てるなぁ~」って気持ちを満たしてくれる。 

ただ、今作についてはモラルに欠ける部分がちょっと行き過ぎていると言うか、(個人的には)超えちゃいけない一線を超えてしまっていて、正直悪ノリが過ぎる映画だなと感じました。 

あと、絶世の美女ではなく、普通の女学生にいそうなエマ・ストーンが良かった。

前半の背伸びをしているときのキュートな感じと、後半の自分は常識人に過ぎないと身の程を知った感じのギャップ。

後半はちょっとウザかったけど。

しかし、年齢の話をしては何だが、80歳にして毎年コンスタントに作品を発表し続けるウディ・アレン監督には頭が下がる。

いつまでもお元気で…と願わずにいられない。 
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