りっく

ファンシイダンスのりっくのレビュー・感想・評価

ファンシイダンス(1989年製作の映画)
3.6
最新作「カツベン!」まで引き継がれている周防正行の作家性は既にこの長編デビュー作で確立されているのが分かる。群像劇を描き分ける手際の良さは現在のほうが格段に上だが、ニッチな世界を徹底的な取材により固めていき、その中で存分にドラマツルギーしていく。その根も葉もある絵空事というフィクションとの向き合いの先にあるエンターテイメント性は、やはり師匠である伊丹十三の影響か。

冒頭でしっとりと歌うモヒカン頭の本木雅弘の横顔が映されるが、その片側はすでに坊主であり、それが判明するや否や歌い方もパンク調になり、いよいよ頭が剃り上げられる。この幕開けがとてもいい。

跡継ぎとして僧侶になろうとした主人公。立派な人間になったかも知れないが、中途半端に俗世への未練もタラタラ。そんな彼をヒロインは甘やかすことなく、2人が結ばれるような甘い着地を断罪する。

聖の道も俗の道も道すがらになった主人公が、ただ煩悩の広大な海にぷかぷか浮かんでいることしかできない。その骨抜きになって茫然とするアホ面を眺めるだけで最高だ。
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