乙郎さん

ソレダケ that’s itの乙郎さんのネタバレレビュー・内容・結末

ソレダケ that’s it(2015年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

石井岳龍『ソレダケ/that's it』2015
とてもよかった。僕にとっては御褒美のような映画。ミュージックビデオ的というのもここまで突き詰めたら映画になる。
元々bloodthirsty butchersが好きというのもあるけど、確実に中学生や高校生の頃の僕に見せていたら発狂していただろうな、と思わせられるかっこよさ。はっきり言ってしまえば、ここで描かれるかっこよさの浪漫というのは時代錯誤的なものだけど、そこがいい。中学生の頃にロックの洗礼を受けたはいいが、時代が下るにつれてその幻想が(個人的にも時代的にも)薄れてきたという実感はある。ロック映画とされる映画を観てもそれほど興奮しなくなっていた。だからこそ、この映画に出会えたことがうれしい。
所謂「スタイリッシュ」な映像は時としてダサいし、bloodthirsty butchersの音楽だって物語への没入を阻害する要素になりうるほど個性が強い。でも、彼らの音楽に乗せて染谷将太が走っているのを観るだけで不思議な多幸感につつまれる。
物語としても『狂い咲きサンダーロード』をなぞっていると言ってもいい。ただ、異なる部分としてあくまで乗り込む時は孤高だった山田辰夫と、隣に恋人がいる染谷将太の対比を考えると面白い。
あと、どうしても思い入れが出てきてしまう故世代論で考えてしまうのだが、この映画のキャストで最年長の村上淳と、その1つ下の渋谷清彦は70年代生まれ、綾野剛は80年代、染谷将太と水野絵梨奈は90年代。
90年代生まれが70年代生まれに虐げられるも、その70年代生まれは80年代生まれが陰で手を引いており、最終的には70年代生まれとも手を組むかたちで80年代生まれと対峙するというのは石井監督の世代感か?80年代生まれとしては少し複雑だが。
あとは登場人物がすべて饒舌で、でも説明的になっていないところが素晴らしいと思いました。リピーターが出るのもうなずける。(了)
乙郎さん

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